くそったれ! 『冬のフロスト(上・下)』 R・D・ウィングフィールド、芹澤 恵 訳 / 創元推理文庫
6月の発売時にはタイトルと時候の落差のあまり「なんとまあ」と取り置いていた『冬のフロスト』、ようやく心おきなく紹介できる季節と今はなった。未読の方は木枯らしをついてさあ本屋に急ごう。
『冬のフロスト』は愛すべきフロスト警部シリーズの長編第5作。
このシリーズ、初期には「モジュラー型ミステリ」と紹介されることが少なくなかった。
モジュラー型というのは、複数の事件が同時に発生し、それがたとえば
(A)⇒(B)⇒(C)⇒(A)⇒(B)⇒(C)⇒
(A)⇒(B)⇒(C) ⇒…
と進行して、最後にそれらの事件が複雑に入り組んでいたことが明らかになる、そんな感じだ。
しかし、最近の解説では「モジュラー型」の肩書などさっぱり見かけなくなってしまった。なぜか。
そんな甘いものではないからだ。
『冬のフロスト』においてフロストにふりかかる厄災はいきなり
(イ)⇒(ロ)⇒(ハ)⇒(ニ)⇒
(ホ)⇒(ヘ)⇒(ト)⇒ …
本当。巻頭から50ページばかりめくってみればすぐわかる。
事件に次ぐ事件、ミスに次ぐミス、押し寄せる相談者、無能極まりない部下、杓子定規な上司、事件に次ぐ事件、ミスに次ぐミス、以下同。
こんな事態に神ならぬよれよれ警部フロストはどう対処するのか。こうするのだ。
とりあえず(イ)の現場に向かう。(ロ)の容疑者を決めつける。なんてこったい、(ハ)をすっぽかしちまった。とりあえず(ニ)もおいとこう。署長に(ホ)を押し付けられる。久々にベッドに入ったと思えばそこに電話。そういえば(イ)はどうした。(ロ)をとり逃す。(ヘ)が向こうから押し寄せてくる。(ロ)と(ホ)は同じ犯人らしい。すまん、全員残ってくれ。この中から(ト)を探せってのか。ああ、やっちまった……。
フロストといえば、書類の扱いはいい加減、誤認逮捕や請求のチョロまかしもやらかせば、ジョークはお下劣、若い女性にはセクハラ三昧。一見も中身もサイテーの部類だが、決して万事にフマジメなわけではない。事件に対しては誠実だし、被害者への思いやりもある。
それにつけても手が足りない。あまりの忙しさに大切なことを忘れてしまう。被害者の家族に報告するのはつらい。サンドイッチは切れ、紅茶は冷えている。そこに加えて
(チ)⇒(リ)⇒(ヌ)⇒(ル)⇒(ヲ)
さあ、どうするフロスト。
そんなこんなで上下巻合わせて1000ページ、文庫と思えぬ合計2,600円(税別)の大冊だが、芹澤恵さん苦心の名調子もあいまって読み始めたらもうとまらない。
メインとなる事件そのものは幼女殺害、売春婦強殺など陰惨、ダーティで、必ずしもユーモア一辺倒ではない。もがくフロスト。
こんがらがった糸がもつれてはほどけ、ほどけてはもつれ、読者はフロストとともに冬の夜のデントン市を走る。残りページはあとわずか。そして最後のページ。
フロストは救われるだろうか。そしてあなたは。
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