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2013年10月の7件の記事

2013/10/21

あさりよしとお祭り 最終回 『ナウシカの飛行具、作ってみた 発想・制作・離陸──メーヴェが飛ぶまでの10年間』 八谷和彦 / 幻冬舎

Photoピンクのクマの「モモ」がとことこ手紙を運んでくれるメールソフト「PostPet」をご記憶だろうか。烏丸もペットのカメの「まくら」に愛の原稿催促メールを再三運ばせたものだ(遠い目)。
その「PostPet」の作者であるメディアアーティスト、八谷和彦が、なんとあの『風の谷のナウシカ』のメーヴェを実作した。──本書はその発案から飛行実験にいたる10年を語ったものである。

1冊の本としては、メディアアーティストという職業の手広さ、苦心、「PostPet」作成の背景、東日本大震災に際しては放射線やガイガーカウンターの啓蒙ミーティング、と、当節のカルチャーの裏話的な読み物としても楽しめる。しかし、なにより、語り手が、ナウシカの原作への感動から白い飛行具メーヴェを作ってみようと発案し、それをこつこつ推し進めることを(収支はさておき)「仕事」にしてきた、という点が独特だ。
グライダーを趣味とする、といったありきたりのアングルではないし、さりとてグライダーで運ぶ、インストラクターになる、といった実業のレイアでもない。作ってみせること、飛んでみせること、そのこと、そのもの(プロジェクト)がまるごとアートとして示されるのである。

メーヴェを作るという発想は魅力的だし(プロペラ機でなくジェットエンジン。ロマンだ……)、模型制作からゴムで引くグライダー実験、最後には自走しての飛行にこぎつける経緯と努力には感動を禁じ得ない。しかし、正直にいえば、それをプロジェクト化して「仕事」にしてみせる著者のスタンスは今一つよくわからない、というか実感がわかない(決して批判しているわけではないので念のため。当方の貧弱な引き出しには、これを「暴走」でなく実現してみせる生き方が収まらないのだと思う)。

そして、そんなことより、本書で負のベクトルに刻まれたのは、でき上がったメーヴェ(M-02J)で飛行するまで語り手は長年にわたりハングライダーなどで入念な飛行訓練を繰り返したこと、また一方、このメーヴェは決して安全な乗り物ではないと本文中で幾度か念を押されていることだ(たとえば巻末の「謝辞」には「死なないようにします」とある)。
ヒトは、飛べるようにはできていない。3mの高さからでも、落ちようが悪ければ死ぬ。
それはつまり、焦がれても、焦がれても、ヒトはナウシカやシータやキキにはなれないということでもある。

八谷和彦は「なつのロケット団」の一員。また、巻末にあさりよしとおがメーヴェの独特な形状と飛行の秘密を解き明かした「まんがサイエンス」特別版を提供している。
本書をもって秋のあさりよしとお祭りの最終回とさせていただいた次第である。

2013/10/16

寂しきアンパンマン 『アリスのさくらんぼ』 やなせ・たかし / サンリオ出版

Aliceやなせたかしが亡くなった。94歳。

台風の雨の音の中、子ども部屋の本棚から古い本を取り出して、読み返す。

『アリスのさくらんぼ』は昭和48年発行(この年はやなせたかしが詩や童話を公募した雑誌「誌とメルヘン」の創刊された年でもある)。
絵と文章からなる7つの短い童話、というかメルヘン、が収められている。

愛しい兎に動物法廷で裁かれ、さくらんぼの実で心臓を撃たれる、という表題作はじめ、いずれもどこか寂しく、痛々しいお話。

アンパンマンも登場する。
アンパンマンは童話集『十二の真珠』(昭和45年)に次ぐ登場で、のちのフレーベル館の絵本やテレビアニメに登場する元気のよいアンパンマンとはまるで違う。

なにしろ
  おれはね、たべられることが仕事なんだ
  おれはよろこんで何度でも死ぬよ

と伝法な口ぶりだし、テレビやマンガの主人公たちを
  玩具や、お菓子を売りつけるスポンサーつきの広告屋ばかりだ
とこき下ろすし、アンパンマンが世界中の飢えた子どもたちを助けていることを知っている漫画家の青年は
  たとえ誰もよろこばなくても、編集者は反対しても、ぼくは君の物語をかきつづけるよ
とお話を終える。

そしてやなせたかしは死ぬまで描き続けた。

2013/10/14

あさりよしとお祭り その4 『宇宙へ行きたくて 液体燃料ロケットをDIYしてみた 実録なつのロケット団』 学研科学選書

Photo宇宙(そら)愛づる入道、あさりよしとおのロケット好きは病膏肓に入り、ついに仲間を集い、手作りロケットを打ち上げるにいたる。
本書は、そんな「なつのロケット団」の現在進行形の記録である。ちなみにマンガではない。

きっかけはあさりよしとおが「宇宙作家クラブ」の講師に招かれた宇宙機製作エンジニア、野田篤司にぶつけた次の質問だ。

 「最少の、衛星打ち上げロケットを作ろうとしたら、一体どれくらいのサイズにできるか」

応える野田の

 「三段式で、全体のボリュームはドラム缶1本分強。全長は3m程度」

という計算がのちに作品『なつのロケット』を生み、さらにはロケット好きなクリエイターやエンジニアたち、さらにはホリエモンこと堀江貴文まで集まってヒャッハーなロケット実機製作に突き進むことになる。

ペットボトルロケットの水準ではない。既成のロケットエンジンを購入して飛ばすのでもない。ホームセンターの材料と町工場の技術を使い、手作業で衛星を軌道投入可能なミニマムサイズのロケットを作る。
目標は秒速7900m以上で打ち上げ、高度200km以上に到達することだ。

宇宙事業といえば国家規模のものしか知られていないため、途方もなく高度で素人には到底手の届かないものと考えるのが普通だ。もちろん基礎的な知識と技術は必要だし、さまざまな困難はともなうが、民間で宇宙まで飛ばすことがまったく不可能ではないことを本書は教えてくれる。困難とはたとえば「タンクに液体燃料が入らない」といったレベルの問題であり、それはアイデアや工夫によってやがては凌駕できるのだ。

もちろん精密部品については金属加工業者への発注が必要だが、それ以外は金も場所(初期は自宅キッチン、ユニットバス!)も持ち寄りである。テストベンチ、安全、回収、撮影といった外回りのこまごまがエンジン開発や液体燃料の扱いと同じ重みで記されているのも興味深い。

「なつのロケット団」がのちに協力を仰ぐ北海道の植松電機社長の発言がいい。

 「だれもやったことがないから無理というのは、やらない言い訳」
 「世界初のことは教えてもらえないので自分で試すしかない」

Web上にはあとがきにある通り、今年8月に6号機にあたる「すずかぜ」が高度5000mをめがけて打ち上げられ、回収されるまでをオンボードカメラで記録した映像が公開されている。
アトムの視野だ。

2013/10/10

あさりよしとお祭り その3 『小惑星に挑む』 白泉社 楽園コミックス

Photo『小惑星に挑む(Hoshi ni Idomu)』は、小惑星イトカワに到達した無人探査機「はやぶさ」の帰還をテーマにしたもう1つの「まんがサイエンス」である。

不思議なことに、対象が「はやぶさ」であることはカバーにも作品中にも一切明記されていない。
JAXAの了承を取る手続きに問題があったのか、「はやぶさ」が話題となる以前から取材を重ねていた作者がブームに乗じたと見られることを嫌ったのか──真相はわからない。

作中ではあさりちゃん、あやめちゃんの代わりに宇宙人の女の子2人が進行役を果たす。が、作者の宇宙好き、ロケット好きが高じてか、得意の不条理ギャグは控えめで、全編「解説」基調の作品となっている。地球への軌道やイオンエンジンの構成など、きちんと理解するとなるとそれなりに難解だが、すべて理解できずとも作品としては楽しめるので心配ない(この程度で腰の引ける方は、そもそもあさりよしとおの宇宙本に手に出したりしないだろう)。

本書のもう1つ、大きな特徴は、地球人、つまり「はやぶさ」を開発し、打ち上げ、何年にもわたり声を掛け続けた技術者、スタッフがただ1人、1コマとて登場しないことだ。
そのため「はやぶさ」の帰還途上のさまざまな困難はセンチメンタルな美談、人情噺に流れず、ただ技術的な準備と対処の積み重ねとしてのみ描かれていく。それが

鳥肌の立つような感動を招くのだ。

2013/10/09

あさりよしとお祭り その2 『まんがサイエンス Selection 人体の驚異』 学研マーケティング ノーラコミックス

Photo_2その『まんがサイエンス』のコンビニコミック版。B6サイズ、500円。
生きているうちにこんなものにお目にかかれるとは夢にも思っておりませんでした。

内容は、既刊から人のカラダに関する話題をとりまとめたベスト集成20話。おお、懐かしのケペル博士黒子付きも登場だ。あやめちゃんがこれほどしつこく「太り気味」「う○こ」ネタでいじられていたとは。あさりちゃんかわいい顔してドS。

しかし、斜めなギャグマンガのふりをしつつ、DNAと寿命についてなど、科学に関する内容はなかなかに深くて重い。試しに寝る前に読み返してみる。ぐだぐだに怖い夢を見てしまった。

あさりよしとお祭り その1 『まんがサイエンスXIV』 学研マーケティング ノーラコミックスDELUXE

PhotoASTEROID Miners 2』あたりから、気がつけばあさりよしとお強化月間である。
時代がようやく追いついてきたのか。残るは叡智の光、『ラジヲマン』か──。

ともかく、まずはくるくる回転図書館でもおなじみの『まんがサイエンス』、新刊から。

掲載誌が小学生向け「科学」から「大人の科学マガジン」に移ったせいか、核分裂からヒッグス粒子まで大ネタ炸裂。かなり難度の高そうなテーマが並んでいるが、そこを人三化七の怪しい専門家たちが無理やり教えてくれるのがこのシリーズ。とくに放射線と放射性物質の違い、ベクレルとグレイとシーベルトの違いなど、これよりわかりやすい記事があったら持ってこいやー、な水準。
とはいえあさりちゃんあやめちゃんによるスチャラカ展開は昔のまま、昔というのはつまり古いものだと26年前のことで、小学生の頃にこの作品で物理・生物・化学の楽しさ面白さに触れた子供たちがそれぞれの勤め先で主戦力になってお釣りがくるほどの年月だ。

もし今世紀末まで日本の科学力がそこそこ維持できたなら、その大陸棚の一部は『まんがサイエンス』の力であり、逆に日本が科学立国たり得ないなら、それは『まんがサイエンス』を広く読ませてやれなかった大人たちの責任だろう。あ、逃げた。あ、また逃げた。

2013/10/07

倍返し利子付きティッシュ付き 『オレたちバブル入行組』 池井戸 潤 / 文春文庫

Photo断るまでもなくTBSドラマ『半沢直樹』の原作である。
『家政婦のミタ』にも『あまちゃん』にも乗り損ねた亭主の身としては、せめて家族の団欒に取り残されまいと必死の追走。『あまちゃん』総集編も録画予約はばっちりだ。

で、小説『オレたちバブル入行組』だが、バブル期に大手銀行に就職した主人公が、不良債権の責任を押し付ける上司の悪巧みを見事はねのけるという、まあ会社人にはたまらない痛快活劇(ちゃんばら)である。ピンチと逆襲が繰り返されるテンポもいい。

驚いたことに、ドラマの番宣で紹介された名シーンのいくつかはほぼ原作そのままだ。
ドラマ『半沢直樹』は(一部のキーパーソンは除き)かなり原作に忠実に作られている、ということであり、原作が十分面白いなら、迂闊に話をこしらえず、原作の妙味をそのまま皿に出したほうが視聴率を取れるということかもしれない。
もちろんよくできた原作をもってくればヒット、などという簡単な話でもなく、今回は脚本の面白さ、役者たちのはまり演技、「倍返し」なるわかりやすいキャッチコピー、『水戸黄門』がなくなって勧善懲悪ドラマに飢えたお父さんたちのテレビドラマ回帰、などなどさまざまな条件が重なってのことだったのだろう。ここで似たような脚本作り、似たような役者集めをしたからといって……いやだからそうやって柳の下ばかり探すからダメなんだって。
いずれにせよ、『半沢直樹』の二番煎じはそれはそれで難しいに違いない。『古畑任三郎』のパクリといえるほどのものが実際は存在しないように。

ところで、もし半沢直樹のようにむき出しの人物が会社に実在したなら、いくら有能でも、「使いづらい」との評価を受けるのが普通ではないだろうか。その限りでは、面白さを優先して、リアリティが削がれているようにも感じられた。
そもそも外に向かって「莫迦」だの「間抜け」だの、ほかの行員のいるところで土下座だの、言い過ぎやり過ぎはリーマンとしてはマズいでしょう。

また、本書では西大阪スチールなる会社の社長が粉飾決算、偽装倒産、隠し財産と重ねて半沢を欺こうとするのだが、その手口の細かいところが今ひとつヌルいといえばヌルい。かつての『ナニワ金融道』なら貸し手と借り手の攻防はもっとシビアだった。そう記憶しているのだが、どないや灰原。

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