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2013/09/03

向き合う 『さよならタマちゃん』 武田一義 / 講談社イブニングKC

Photo癌に罹った35歳のベテラン漫画家アシスタントによる、思いの丈のこもった闘病記。

本作はおそらく今年後半にかけて大きな話題となるに違いなく(それだけの力のある作品である)、癌と闘病に関してはあちらこちらで紹介されるに違いないから、ここでは本作のもう1つの柱である「表現者としての闘い」について書いておきたい。

なお、以下では本作の詳細な展開にふれるため、未読の方はご注意ください。

精巣腫瘍(睾丸の癌)の発症、肺への転移のため、作者はそれまで勤めていた漫画家の先生(『GANTZ』の奥浩哉)のもとでのアシスタント生活の中断を余儀なくされる。
作者は入院先のベッドで漫画家として独立すべく(何度目かの)決心をかため、新しい作品の下描きを始めるが、抗癌剤による治療は彼の肉体、精神を蝕み、絶え間ない吐き気と痛みが彼を追い詰める。
妻と漫画家仲間たちのいたわりに支えられ、1年にわたる入院治療ののちようやく癌細胞は消えるが、退院を間近にした作者をさらなる苦難が襲う。ペンを持つことができなくなってしまうのだ。
抗癌剤による後遺症である。

そこに記された
  今まで覚えた
  絵の描き方は
  一度
  すべて忘れよう
という、さりげないコマが重い。

つまり──、『さよならタマちゃん』の連載、単行本化は、穏やかで健全な生活と(連載の最後まで作者は病気の再発にうなされる)、アシスタントとして長年重用された技量を喪った代わりに得られたものなのである。

そう知って最初のページから読み返すとき、朴訥とした、どちらかといえばギャグタッチで描かれたこの作品が、実は個人の闘病記、素描などではなく、極めて高度な再構成力をもって組み上げられた作品であることに驚く。
病気を知ってからの当人の戸惑い、強がり、弱気、苦悩、そして回復と帰還。妻とのいたわり合い。個性豊かな入院患者たち、その闘病。頼もしい医者、活気あふれる看護師たち。

丁寧に読み返せばわかることだが、どれ一つとして無駄なコマはない。無駄なコマなど入り込む余地はない。
これは、そうした精神と指の運びによって岩を刻むようにして描かれた作品なのだ。

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