宇宙は広い、宇宙は狭い 『ASTEROID Miners 2(アステロイド・マイナーズ 2)』 あさりよしとお / 徳間書店 RYU COMICS
2011年にいったん刊行告知されながら、説明なく延期されてきた第2巻がようやく発刊された。
延期の理由はよくわからない。結局収録されなかった未完作がかかわっているとの説も目にするが、実作を見ていないので論評は控えたい(←できない、が正しい)。
タイトルは直訳すれば「小惑星の鉱夫たち」といったところか。これはかなり実態を表している。
人類が宇宙に進出し始めた時期に宇宙で働くとはどういうことか、この作品はそれを甘々した想像力でなく、科学的な推論を重ねて推察し、描いているのである。
フレイバーは多少ブラックなギャグではあるものの、結果として全体にプロレタリア文学のパロディのようになってしまい、マンガ作品として爽快とは言いかねる。
主人公が地べたならぬ狭い居住空間を這いずって苛立ちの声を上げてばかりいる作品が多い中、「Mission 05 独裁者の幻想」は宇宙戦闘機を開発することで国威高揚を企てる独裁者をおちょくった比較的明るい(?)作品だが、それでも結果は「宇宙戦艦なんたら」やら「銀河かんたら伝説」やらの夢を打ち砕いて終わる。
だが、シニカルだから否定的、というわけでもない。
作者は宇宙戦闘機が弧を描いて撃ち合い、おしゃれな宇宙服の恋人が待ち構えるようなウェスタンSFに対し、足を地につけた、もとい天井の低い居住空間にしゃがみ込むような登場人物を描くことで、宇宙工学の基礎を語り、厳しくもリアルな宇宙開発への夢を共有しようとしているのである。
宇宙開発への作者の本気度は、過去のいくつかの作品からもうかがい知れる。
推奨は(何度でも推したい)『まんがサイエンスII ロケットの作り方おしえます』、そして『なつのロケット』の2作。
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