『黒異本』 外薗昌也 / 廣済堂モノノケ文庫
一方、実話怪談蒐集でも知られるマンガ家外薗昌也による『黒異本』は先の『妖しい怪奇譚 実録怪談集』に比べると格段に強烈だ。
(どこまでが本当かは知らないが)ともかく各逸話ごとに二段落ち三段落ち、さらに後日談まで追い詰め、煮つぶし、これでもか、これでどうだの濃厚テイスト。
とくに巻の中央をどっぷり占める「団地」~「黒い人」にかけてのノイジーなラインナップは、心霊系の怖さに生身の人間のエグみ、生理的嫌悪感に生活への実害などなどさまざまなレイヤの気持ち悪いものがベタついて重なって、ここ数年の実話怪談本中でも出色の出来だろう。
ただ、ないものねだりとわかって言うなら、この『黒異本』の怖さに逆に実話怪談本の限界を感じないでもない。頑張ってもこのヘンまで、とでも言えばよいか。
この本で取り上げられている「黒い人」がもし実在するなら、『黒異本』の怖さはその人物のキャラクターやその周辺の怪事件に依存することとなり、極言すれば作家の想像力や編集の手腕は不要となる。
一方、「黒い人」がもし実在しないなら、作家の表現は彼が実在するごとく書かねばならないという制限を受け続けることになる。
実在する怪談蒐集家、その蒐集家に心霊体験を訴える知人・ファン、体調を崩す編集者。そういった面々が繰り出す箱庭の中の怪談群。
かたや適度なスプラッタに東西の伝奇のスパイスをまぶし、あわよくば映画化をうかがう商用ホラー長編群。
どちらももちろん悪いというわけではないが、パターン化した恐怖はどうしたってやがては慣れる。精神でなく神経を刺激する傾向のものならなおさらに。
かつて「新耳袋」シリーズが地縛霊、金縛り、心霊写真などといった既存の怪談の様式に納まらない怖い話、面白い話への窓を大きく開けてみせたように、そろそろ「実話」「実録」の縛りを受けない、アマチュアの自由奔放な精神による新しい「怪談」のブレークスルーを見てみたいと思うのは贅沢なのだろうか。
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