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2013/07/08

『肉筆幽霊画の世界』 安村敏信 / 新人物往来社

Photo_3二百年待ち焦がれてきた宝箱が思いがけずまろびきた、そのような心持ちである。

というのも「幽霊」を専門に扱った画集は極めて少ない。
鳥山石燕の画図百鬼夜行、稲生物怪録絵巻、さらには水木しげる作品群など、容易かつバリエーション豊かに入手できる「妖怪」本に対し、比較すべくもない。

現在入手可能なものに辻惟雄監修『幽霊名画集 全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション』(ちくま学芸文庫、2008年)がある。これは大変な労作ではあるのだが、いかんせん文庫だけにどうしても五十点の図版が小さい。カラー印刷の品質も物足りない。
また書物として見るに、幽霊画についての歴史資料研究の趣が強すぎ、こと「幽霊」という感性に訴えるべき題材を扱っている本としてはやや学究的に過ぎてつらい(それが主旨なのだから当然のことではあるのだが)。

そんな中、新人物往来社から発刊された『肉筆幽霊画の世界』は、その三遊亭円朝コレクションをはじめ、大阪の大念佛寺、福岡市博物館、京都の大統院など、各地に伝わる肉筆幽霊画ばかり百点を集め、オールカラーで紹介したもの。
Photo_2先の『幽霊名画集 全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション』とかぶる図版も少なくないが、文庫に比べておおよそ1.5倍というだけでずいぶんと画質が向上し、また随所で断ち切り一杯に幽霊の顔のアップを掲載しているため、電車で隣の若い女性がきゃっと悲鳴をあげるくらい真に迫る力がある。

円山応挙、河鍋暁斎、月岡芳年など名の知られた画家の作品もよいが、作者、年代不明な作品にも見るべきものが少なくない。
足がないことからようやく幽霊とわかる応挙の端麗な美女、恨む相手の首を咬みちぎった血みどろグロテスクな怨霊、なぜか情けない顔つきの男の幽霊たち、掛け軸そのものも描き込んで幽霊がそこから飛び出して見える「描表装」なる手法によるものなど、画風もさまざまで、ページを繰って飽きることがない。
肉筆画に限定したため、巨大な骸骨が暴れるような騒々しい木版作品が排され、音のない冷え冷えとした世界観で徹底されているのもまた嬉しい。

昨今の怪談本では「幽霊」という言葉は死語に近く、「心霊現象」がそれに代わっている。
かつて「幽霊」が語られたとき、お岩にせよお菊にせよ、死者は非業の死を遂げていることが多かった。つまりは死者を嬲った生者のほうがよほど傲慢で我が儘だった。しかるに現代の「心霊現象」においては、霊側がむしろ執着に囚われ、身勝手と判じざるを得ないことも少なくない。
そもそも幽霊の「幽」は幽境、幽冥、幽玄、幽遠の「幽」である。これを個々人の狭隘な「心」などに差し替えてしまえば、いかにヒリヒリ怖かろうが、本書に示された幽霊たちの奥深くも静かに美しきさまが喪われてしまうのも必定というものだろう。

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