『愛されたもの』 イーヴリン・ウォー 作、中村健二・出渕 博 訳 / 岩波文庫
岩波文庫『愛されたもの』は今年2013年の3月15日発行。同じウォーの『ご遺体』(光文社古典新訳文庫)はその3日前の3月12日。
実はこの2作、邦題は異なれど同じ作品(原題は The Loved One: An Anglo-American Tragedy)。それぞれの編集担当や訳者は相手方から別タイトルで発行されることを知っていたのだろうか?
何もこんな小さくて甘くないパイを奪い合うこともないだろうに。
ストーリーは、ビジネスライクなハリウッドの葬儀会社を背景に、イギリス人とアメリカ人の相克をブラックに描き──ということらしい。手練れのイギリス作家による「お葬式」、そう読めばよいのか。
最初の30数ページで映画界の栄光から見放され、人生をはかなんで死んでしまう老詩人だけが妙に人間くさく、あとは主人公とおぼしき野放図な若い詩人にせよ、一流の遺体修復師にあこがれる人形のようなアメリカ女にせよ、何かのコメディを真似たどこかのコメディをさらに真似た舞台慣れしていない学生のようで、背ばかり高い印象。少なくとも笑いのツボを押されることはないまま終わってしまった。
せめてもう少し、嫌なものがあるとよかったのだが。
« 『探偵ダゴベルトの功績と冒険』 バルドゥイン・グロラー、垂野創一郎 訳 / 創元推理文庫 | トップページ | 『グラゼニ(10)』 原作 森高夕次、漫画 アダチケイジ / 講談社モーニングKC »
「小説・詩・文芸評論」カテゴリの記事
- 美しき回転軸の群れ 『輪廻の果てまで愛してる 現代の短篇小説 ベストコレクション2025』 日本文藝家協会・編 / 文春文庫(2026.06.11)
- 『店長がバカすぎて』 早見和真 / ハルキ文庫(2026.05.28)
- 真夏(?)のホラー特集 その8 最終回 『死と乙女』(2025.11.10)
- 『族長の秋』 ガブリエル・ガルシア=マルケス、鼓 直 [訳] / 新潮文庫(2025.04.14)
- 『偏愛蔵書室』 諏訪哲史 / 河出文庫(2025.03.10)
コメント
« 『探偵ダゴベルトの功績と冒険』 バルドゥイン・グロラー、垂野創一郎 訳 / 創元推理文庫 | トップページ | 『グラゼニ(10)』 原作 森高夕次、漫画 アダチケイジ / 講談社モーニングKC »


葬儀に関する作品では、かまたきみこの短編集『てんから』収録の「エンセル」がイチオシ。
http://karasumaru.txt-nifty.com/kurukuru/2005/02/fall-in-5d1f.html
投稿: 烏丸 | 2013/05/26 02:03