酔いたりず脱ぎたりず 『恐怖女子会 不祥の水』 花房観音 田房永子 神薫 明神ちさと / 竹書房文庫
とうにブームを終わってよさげな実話怪談、都市伝説系怪談をいまだ文字通り牽引し、発掘し、しゃがみ縮こまる書店新刊棚に季節を問わず貢献しているのが平山夢明である。文藝怪談の東雅夫とともにその継続の労は天井から延びる白い手のように長くおどろおどろしく讃えられるべきだろう。
さて、その平山夢明監修の竹書房新刊は、若手女流作家四人に綴らせた怪談集だ。著者は掲載順に神薫、明神ちさと、田房永子、花房観音。「神」と「房」がかぶることに女流ならではの意味があるのか、ないのか。
新進の女流作家にそれぞれ小さなボリュームを持たせる試みは面白く、四者がそれぞれの素性を活かした四様の怪談、奇譚を語る構成も悪くない。飽きず一息に読み通すことができた。
ただ、一人ひとりの語り手、怪談の一篇一篇をみると、惜しむらくは線の細さ、あやかし度合いの薄さを肌に感じざるを得ない。二段に落とす、落として絞めるだけのしつこさに欠け、落とさずぷいと放置する冴えもない。前後の自身の体験談で水増しされているが、肝心かなめの怪異、奇人は「書き手が騒ぐほどでない」「世の中にはそういうイタい人もいる」程度という掌編も少なくない。
個人的に、実話系怪談本の評価は、家に置いておきたくないかどうかを頭の中、チョークで線引きし、それで匣を分けている。線を越えた本をうっかり深夜に一人で読んでいたりすると、空気が冷え、柱が鳴る。推挙、再読に足る本ほど置いておきたくない。板ばさみに嬉しく身悶える。
『恐怖女子会 不祥の水』にはそういったジレンマまでは感じなかった。当たり前のことだが、こういったものを書こうとすると、誰しも近隣の死や説明のつかない話題に、とみに敏感になる。それを自分が引き寄せていると勘違いしては怪異の蜜度(ママ)を見誤るのだ。
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