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2013年4月の6件の記事

2013/04/30

酔いたりず脱ぎたりず 『恐怖女子会 不祥の水』 花房観音 田房永子 神薫 明神ちさと / 竹書房文庫

Josikaiとうにブームを終わってよさげな実話怪談、都市伝説系怪談をいまだ文字通り牽引し、発掘し、しゃがみ縮こまる書店新刊棚に季節を問わず貢献しているのが平山夢明である。文藝怪談の東雅夫とともにその継続の労は天井から延びる白い手のように長くおどろおどろしく讃えられるべきだろう。

さて、その平山夢明監修の竹書房新刊は、若手女流作家四人に綴らせた怪談集だ。著者は掲載順に神薫、明神ちさと、田房永子、花房観音。「神」と「房」がかぶることに女流ならではの意味があるのか、ないのか。
新進の女流作家にそれぞれ小さなボリュームを持たせる試みは面白く、四者がそれぞれの素性を活かした四様の怪談、奇譚を語る構成も悪くない。飽きず一息に読み通すことができた。

ただ、一人ひとりの語り手、怪談の一篇一篇をみると、惜しむらくは線の細さ、あやかし度合いの薄さを肌に感じざるを得ない。二段に落とす、落として絞めるだけのしつこさに欠け、落とさずぷいと放置する冴えもない。前後の自身の体験談で水増しされているが、肝心かなめの怪異、奇人は「書き手が騒ぐほどでない」「世の中にはそういうイタい人もいる」程度という掌編も少なくない。

個人的に、実話系怪談本の評価は、家に置いておきたくないかどうかを頭の中、チョークで線引きし、それで匣を分けている。線を越えた本をうっかり深夜に一人で読んでいたりすると、空気が冷え、柱が鳴る。推挙、再読に足る本ほど置いておきたくない。板ばさみに嬉しく身悶える。
『恐怖女子会 不祥の水』にはそういったジレンマまでは感じなかった。当たり前のことだが、こういったものを書こうとすると、誰しも近隣の死や説明のつかない話題に、とみに敏感になる。それを自分が引き寄せていると勘違いしては怪異の蜜度(ママ)を見誤るのだ。

2013/04/28

語るにのぼる 『三文未来の家庭訪問』 庄司 創 / 講談社アフタヌーンKC

PhotoシュルレアリスムやSFは描くことへのチャレンジ精神そのものといったところがあって、チャレンジの姿勢さえ見せられればぶっちゃけ完成度は二の次だ。
その伝でいくなら庄司創(しょうじ はじめ)の作品集『三文未来の家庭訪問』は正しくチャレンジ精神に充ち溢れたSF作品集で、少しばかり絵柄の完成度が低かろうが、コマ運びが読みづらかろうが、そんなものは欠点に数えない。

もう一度言おう、『三文未来の家庭訪問』は極上のSF作品集である。

ことにカンブリア紀、パンサラッサ(古太平洋)の海底を舞台にほんの数十ミリ大のバージェス頁岩動物群をナウシカふうの姿かたちになぞり、その群の滅亡過程に神や蒙昧への畏怖と永遠を語らせた「パンサラッサ連れゆく」が問答無用に素晴らしい(タイトルだけでSFだ)。リアル世界のハートウォームな人間関係と宇宙人の構築した煉獄をカットバックで描いた「辺獄にて」もいい。普段使われない脳神経の一部が踊り出す。ラストが浪花節でも許す。
遺伝子操作が可能となった時代のジェンダーを若者の出会いを借りて描いた表題作「三文未来の家庭訪問」、こちらはテーマやイベントを盛り込み過ぎたかもしれない、今ひとつ揺らされなかった。遺伝子操作で男性が子供を産めるようにできる時代に、主人公の家族以外、おおむね現在とさほど変わらぬメンタリティー、生活ファッションというのもどうか。

2013/04/22

『重版出来!』 松田奈緒子 / 小学館ビッグコミックス

Photo「重版出来」は「じゅうはんしゅったい」と読む。
出版において、初版と同じ版で刷り増しできたことを示す。
「どうやらこの本で利益を得られそうだぞ」という版元の祝詞でもある。

柔道でオリンピックを目指したが、ケガでそれを果たせなくなった「私」。「私」はかつて自分を柔道の道に誘い、その後も常に自分を楽しませ、世界の共通語として感動を与えてくれた「マンガ」作りに参加したい、編集者への道を歩みたいと思い立つ。

柔道の経験を生かし、出版社の役員たちに強いインパクトを残す「私」の面接試験、「私」の着眼によるベテランマンガ家の復活、仕事に打ち込めなかったユーレイ営業部員が本を売る喜びに目覚めていく話。
いずれのエピソードも、素直な心と努力の積み重ねが成果を招く、そういう話に見えて、実はテクニカルかつ打算的。いわば「魔球マンガ」のようなもので、そういうワザモノとわきまえて読めばなかなか面白い作品である。

逆に、一つひとつのエピソードを腰を据えて見ていくと、これってけっこう不快…というページもないわけではない。

たとえば「運」についての作者の考え方はかなり気持ち悪いし、編集部員がやたら泣くのもどうかと思う。
人のよいマンガ家の地味な作品を、スタッフや書店と一体となってベストセラーに仕立て上げる営業課長のセリフは、「仕掛けるぞ」であったり、「『売れた』んじゃない。俺たちが──売ったんだよ!!!」だったりする。たまたまその作品が、読めば誰もが涙する佳作、一人でも多くの人に読んでほしい良作、という設定だから感動的に見えるだけで、もし話題性優先のタレント本やダイエット本ならどうだろう。誰かを傷つけることで平積みになる本だったらどうか。

つまりはマンガ出版とはいえ仕事の一種であり、この作品はその仕事をテーマにしたファンタジーである。それ以上でも、それ以下でもない。

2013/04/15

ゲテゲテ 『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選』 会津信吾・藤元直樹 編 / 東京創元社

Photoアメリカのパルプマガジン「ウィアード・テールズ」(1923)掲載作で戦前に邦訳、発表されたものを探し出し、そのまま(さすがに仮名遣いは改められている)収録した、編者陣渾身の一冊!

「ウィアード・テールズ」から編まれた怪奇小説アンソロジー「ノット・アット・ナイト(夜読むべからず)」シリーズからの邦訳を追い……といった編纂の経緯と苦労は巻末の資料に詳しく、それだけでも読み応えがあるのだが、それ以上に「ひとつの原作に複数の邦訳がある場合は、(中略)ゲテモノ度が高い方を優先的に採用するよう心がけた」、その志が闇黒(すばらし)い。

「ウィアード・テールズ」といえばH・P・ラヴクラフトらを輩出した伝説の雑誌──ではあるが、ありていにいえばB級、三文ホラー誌に過ぎない。したがって作品の質は玉石混交、いや石だらけ、ほとんど荒唐無稽。それを、思い切り著作権意識のぬるい時代、しかも「翻訳小説は載せない」なんて編集方針の日本の雑誌が載せるのだから、もう滅茶苦茶。作者名や登場人物は日本人にすり替わるわ、男女は逆になるわ、肝心な怪奇の説明がスルーされたり、結末が違ったり。
とはいえ、機に応じて才を発揮する傑物はいるもので、当時の読み手によりスリリングで面白く改変するワザに長けた翻訳家がいた、などという話もまた楽しい。

ともかく、全22作、いずれも「なーんやそれ」と言いたくなるような奇天烈な展開、それもいかにもなマッドサイエンティストが登場し、しかつめらしく一寸見科学的な小芝居をしてみせるものがたまらない。
一から十までよく出来てるな!と感心してしまうのが「洞窟の妖魔」、一から千まで馬鹿馬鹿しくて楽しいのが「成層圏の秘密」。成層圏の何がどう秘密なのかは、ぜひご自身で確かめて衝撃を受けていただきたい。一方、不可思議なのが表題作「怪樹の腕」、何が不思議って、なぜ、よりによってこんなものを表題作に……。

などなど、(将来廉価な文庫になったとしても)万人にお奨めできるような本ではないが、「ウィアード・テールズ」「経歴その他一切不明」といった言葉に尖った耳がピピッと立つような方は生贄をついばむ緑色の触手をしばし休め、黒い翼をバサバサとなびかせて夜の書店にゴー。

2013/04/06

「コウダクミ」を漢字で書きなさい 『地アタマを鍛える スゴイ就職試験』 盛田珠実 / 講談社

Photoアベノミクス、さらには日銀による新たな金融緩和の導入によって日経平均株価は急騰しているが、一方学生の就職は……。
とかいった社会的考察まったくなしに、表題の本を買ってきてしまった。どこかで見かけた内容案内が面白そうだったからである。

「徳光和夫さんを10代のアイドルに仕立てる方法を考えなさい」(日本テレビ)、「火星人はどんな生活をしていると思いますか。イラストにして説明してください。制限時間は3分です」(ライブレボリューション)、「面接官が突然、『窓を開けておいてください』と言って退出。しかし、見渡してもその部屋には窓はありません」(リーマン・ブラザーズ)など、発想やアイデアを鍛える就活試験の良問100問を解説付きで紹介

ほかにも、ユニークな問題、奇天烈な問題があまた掲載されており、実際の就活に役立つかどうかは知らないが、寝っ転がってパラパラ読む分には実に楽しい。

「あなたは国王です。自分の国の国歌を作りなさい」(日本テレビ)
「作文・論文『わ』」(世界文化社)
「日本に犬は何匹いますか?」(マッキンゼー)
「2分間で、箸で大豆を右から左に何個動かせるか」(おおむら夢ファーム シュシュ)

奇抜な問題だけでなく、面談の場で問われたら絶句しそうな論理的問題、知識や計算力を問われる難問などもあれこれ紹介されている。
就職試験とは、純粋に力量を確認する面と、あとは要するにその人物の人となりの確認である。珍問奇問に正解があるとは限らず、そういう問題を出されたときにいかに対処するかを見る、ということだろう。

窓のない部屋で窓を開けておけと言われ、壁に椅子を投げつけた受験生がいたそうだ。その人物が合格したかどうかは知らないが、そのような受験生が集った会社の顛末があれかと思うと笑えない。

また、本書は奇数ページに試験問題、その裏にさらりと解説という体裁で、その解説はおおむね可もなく不可もないのだが、

「私を目の不自由な人だと仮定して『青』を説明してください」(ブーズ・アレン・ハミルトン)

に対する著者の回答に限れば、つまらないよりほんの少し不愉快のほうに針が揺れた。

2013/04/01

脳みそミューティレート 『実録 怪奇報道写真ファイル』 並木伸一郎 / 竹書房文庫

Photo『実録 怪奇報道写真ファイル』は表紙を見れば一目瞭然、アンビリーバボーなワイドショー本である。逆にいえば実害の心配はなくて安心。
帯に「最恐の怪報道138連発!!」とあるが、全体のページ数はせいぜい260ページ、それに目次や章立てのページが含まれるのだから一つひとつがいかに薄いか……。

いや、この手の冊子にそのような否定的な姿勢は敵である。殲滅殲滅殲滅。
前向きに行こう。

たとえばFILE-3、台湾に現れたという半透明なエイリアン。むむっ、これはエクササイズに成功したバンデル星人に違いない(バンデル星人を知らない若い方はお父さんに聞いてみよう)。

FILE-4のイエティ、FILE-5のハッシー(浜名湖の巨大生物)、FILE-37ベトナムの宇宙人変死体、FILE-47チュパカブラ、FILE-57ビッグフット、FILE-58ツチノコなどなどなど、UMAの話題も豊富だが、なんといっても恐ろしいのはFILE-60「アメリカ軍が作った生物兵器!? セレブ御用達のビーチに現れたモントーク・モンスター」。なにしろ調査の結果「残念ながら最終的にはアライグマの死骸と発表された」って、そんなものにこの煽り付けられる作者が怖い。

それにしてもキャトルミューティレーション(FILE-40、41)やミステリーサークル(FILE-42)を「あり!」で扱う本を読むのは久しぶりで、それだけでも胸が熱くなるというものだ。おっとこれはコーヒーが口からこぼれていたのであった。だー。

前半は威勢よく2000年以降の報道写真をベースにしているが、後半はバテ気味、大正時代の髪の毛が伸びるお菊人形(FILE-70)とか、ロマノフ王朝の怪僧ラスプーチン(FILE-83)とか、バスティーユの牢獄に投獄されて1703年に獄死した小説『鉄仮面』のモデル(FILE-85)とか、もう何がなにやら。
もちろんジャンルも自由自在、陰謀からUFO、人類滅亡説、おなじみ「アステカの祭壇」、なかには怪奇でも不思議でもなんでもない、放置自転車が木の幹に取り込まれた写真(FILE-76)や偏頭痛薬の過剰摂取で血が緑色になった男(FILE-126)など「世界びっくり話」まで一事が万事急須の番茶。

ちなみに収録記事中でのお気に入りは、FILE-16「死の谷で延々と動き続ける巨岩 ムービングロックの怪現象」とFILE-80「次々と漂着する靴を履いた右足 現在進行形の怪奇 バンクーバー片足漂着事件」の2つ。いずれもなかなかの不思議具合、「ムービングロック」「バンクーバー 片足」でヒットするようなので、興味がある方はググってみるべしみるべし。

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