怪獣の出てこない 『怪獣文藝』 東 雅夫 編 / メディアファクトリー 幽ブックス
黒史郎、松村進吉、菊地秀行、牧野修、佐野史郎、黒木あるじ、山田正紀、雀野日名子、小島水青、吉村萬壱らの短編。加えて佐野史郎と赤坂憲雄、夢枕獏と樋口真嗣の対談あり。
発売前から大いに楽しみにしていた単行本だ。しかし──
たとえば、初代ウルトラマンの各話を思い起こしてみよう。
基本はいずれもおなじみ「ウルトラマン3分以内に怪獣打倒」というパターンだが、その内容はSF色の強いもの、ノコギリ鳴らしてホラーめかしたもの、スプーン握ってギャグに走ったもの、宇宙見上げて奇妙な哀愁にあふれたものなど、意外なほどバリエーションに富んでいた。
だが、ジャンルや雰囲気こそ変化しつつも、それらはすべて「怪獣特撮」という確たるイメージで括ることができたはずだ。
つまり「怪獣」が登場する作品には、SF、ホラー、ギャグなどのジャンルを問わず、それらを横断する確かな共通項があった、ということだ。
ところが本書『怪獣文藝』には残念ながらそれがない。重くて固くて強い、「怪獣」がいない。「怪獣」ならではのスケールを踏み外した感覚、突拍子のなさがまったく感じられないのだ。
収録作のうち、山田正紀や吉村萬壱らの作品の品質はかなり高い。かつて、70年、80年代なら、SF年間ベスト集成といったアンソロジーに選ばれていて不思議でない、そんな水準だ。それでも、本書に登場するのは(よしんば40メートルの巨大生物であっても)断じて「怪獣」ではない。
ここに並んでいるのは総じてウェットな伝奇ホラー、せいぜいSFショートショートなのである。
東雅夫が編者として執筆陣にどのような依頼をしたのかはわからない。わからないが、どうやら「あの、ゴジラやウルトラマンのような作品を」、ではなかったようだ。
もちろん、怪獣に「文藝」を求めることがいけないわけではない。むしろ、怪獣本といえば昔懐かしい怪獣図鑑ばかり、という中に、新しい「文藝」こそ求められているといえなくもない。それでも、今、枯渇しているのは怪獣そのものであって、ホラーではないはずだ。
結局、「怪獣」を味わいたいなら、初期のゴジラや平成ガメラ、そしてウルトラシリーズのビデオを見直したほうがずっといい。
そもそも、この1冊に、その名や姿が読み手の人生に焼き付けられる「怪獣」は1匹でもいただろうか。
もっともそれらしいのが、表紙の、開田裕治による、目を光らせた「怪獣」のイラストなのだとしたら、それはあまりに寂しい。
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