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2013/03/05

竹の青きに 『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(現在2巻まで) 作・K.Kajunsky、漫画・ichida / PHP研究所

Photo家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。どういうことなのでしょうか?」という質問がYahoo!知恵袋にアップされたのは2010年7月17日のこと。
その相談はその後解答数1700を超え、質問者によってブログも開設されてネット上で大きな話題となった。
本書はそのコミック化。

夫の帰宅時に玄関先で口から血を流していたり、頭を弓矢が突き抜けていたり、軍服を着て銃を抱えたまま名誉の戦死を遂げていたり。
夕飯がかつおのたたきの日にダイイングメッセージで「かつお」と書いていたり、ピエロ(ドナルド)姿で倒れていたり、お手製のワニと思われる生き物に食べられていたり。

岐阜から慣れない東京に嫁ぎ、こちらに友達が多いわけでもなさそうな専業主婦が連日「死んだふり」となると(意識的か無意識かはともかく)「この部屋で死んだような毎日を送っているわたし」の表象、と読めなくもない。
ところが、質問者の淡々とした文体で夫婦の穏やかでいたわりに満ちた生活、結婚までのほほ笑ましいいきさつが語られると、ひょうきんな妻によるちょっと風変りな悪戯なのか、とも思う。

コミックはそのあたり、一歩踏み外せば悲愴な話となりかねない危うさと、明るくかいがいしい若妻の両面をすっきりした線で奇麗に描き上げる。

わけもなく唐突に「竹青(ちくせい)」という名が浮かんだ。
「竹青」は蒲松齢の「聊斎志異」にあった伝奇を太宰治が翻案したことで知られるが、作中の「竹青」は万能の女神然とした存在であって決してヤワな女ではない。しかし、「竹青」というその名から想起されるものは、竹が青いのか、竹の青なのか、(聊斎志異にも太宰にもそんな場面はないにもかかわらず)術が破れてただ竹の青、その色だけが川面を流れていく情景だ。

家に帰ると必ず死んだふりをしている少し浮世離れした細面の妻は、実はもう何年も昔に死んでしまっているのではないか。質問者は日ごと夜ごと形を変え姿を変えるその死とよりを戻しているだけではないのか。
もちろんこれは愉快な本であって決してそんな話ではない。そんな話のはずはないのだが、そうでも言わないとつじつまの合わないはかなさが笑いの紗を透かした向こうに垣間見える。微笑ましくも可笑しく、愛しくも少し切ない作品である。

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