『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡』 E・ゴーリー編 梨田元幸 他訳 / 河出文庫
怪談は夏のもの、と言われるが、はたしてそうか。
晩秋から冬の初めにかけ、篠突く雨の音を外に、ぬくぬくと膝掛けなど愛でつつひも解くにふさわしいオールド・ファッションな怪談もある(暖炉と足元にうずくまる猫が揃えばさらに望ましい)。
独特な線画と奇怪な文体で知られる奇才エドワード・ゴーリーによる怪談撰集『憑かれた鏡』は、そんな夜の供にお誂え向きの1冊だ。
収録作家はA・ブラックウッド、C・ディケンズ、R・L・スティーヴンスン、B・ストーカー、W・W・ジェイコブズ、W・コリンズ、M・R・ジェイムズら、19世紀イギリスのゴーストストーリーを飾った錚々たる顔ぶれ(「信号手」! 「猿の手」! 「夢の女」!)。つまりはいずれどこかのアンソロジーで見かけたような作品群であり、およそ新鮮味を期待するのは無理というものだが、その代わり昨今の(神経に直に薬物を打ち込むような)エキセントリックな刺をまとった「実録怪談」に比べればモノクロームの映画にも似た古色蒼然たる様式美の真黒い影が立ち上がり、それはそれで楽しく、読みがいがある。古典の銀は遅効性なのだ。
ところで、本書巻末の解説でも触れられているとおり、このアンソロジーを選別し、各作品に添えるペン画を描いた折のゴーリーを描いた作品がトーベ・ヤンソンの短編集『黒と白』(冨原眞弓 編・訳、ちくま文庫)に収められている。「黒と白──エドワード・ゴーリーにささぐ」がそれで、『憑かれた鏡』に収録された怪談よりよほど現代的で、世界がぐにゃりと熔けてしまうような嫌な感じに満ちている。あのムーミンの作者もまた、黒い鏡に憑かれた作家ではあったのか。
« 来々軒は二度ベルを鳴らす 『麺's ミステリー倶楽部』 ミステリー文学資料館編 / 光文社文庫 | トップページ | 自分探しの旅、今、昔 『眺めのいい部屋』 E.M.フォースター、西崎 憲・中島朋子 訳 / ちくま文庫 »
「ホラー・怪奇・ファンタジー」カテゴリの記事
- 『こどもの頃のこわい話 きみのわるい話』 蛙坂須美 / 竹書房文庫(2026.06.18)
- 姫ヶ嶽 海に身投ぐる いや果ても 『愛媛怪談』 三好一平 / 竹書房文庫(2026.04.21)
- おお、まみあな 『旅情夢譚』 岡本綺堂 / 光文社文庫(2026.03.23)
- 『ハウスメイド』 フリーダ・マクファデン、高橋知子 訳 / ハヤカワ文庫(2026.02.19)
- 『怪物の森 未解決事件捜査官ヴァン・リード』 ジェス・ロウリー、北 綾子 訳 / 新潮文庫(2026.02.16)
« 来々軒は二度ベルを鳴らす 『麺's ミステリー倶楽部』 ミステリー文学資料館編 / 光文社文庫 | トップページ | 自分探しの旅、今、昔 『眺めのいい部屋』 E.M.フォースター、西崎 憲・中島朋子 訳 / ちくま文庫 »


コメント