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2012/11/25

自分探しの旅、今、昔 『眺めのいい部屋』 E.M.フォースター、西崎 憲・中島朋子 訳 / ちくま文庫

Photo おせっかいな従姉と二人で訪れたフィレンツェの宿で、ルーシーは無口な青年ジョージと知り合う。郊外の菫の花あふれる棚地でジョージはルーシーに情熱的なキスをするが、ルーシーは戸惑ったままフィレンツェを離れる。ローマで知り合った青年貴族セシルはルーシーに求愛し、やがて二人は婚約する。しかし、イギリスに戻ってジョージと再会したルーシーは……。

 シンプルな筋立てだ。
 ところが、作品を通してみると、ところどころ説明がつかない。

 たとえば、ルーシーとセシルが出会う場面や、セシルがプロポーズにいたる過程が全く描かれない。セシルの人となり、その時点でのルーシーの心情を描く絶好のチャンスを、作者はすっぱり切り捨てる。一方、ジョージについても、精神性の高い若者、と持ち上げるのはその父親だけ。実態はほとんど描かれず、ただ無口で無骨な青年にしか見えない。軽薄ながらサービス精神旺盛なセシルにより好感を抱く読者は少なくないのではないか。

 社会的な抑圧から自立しようとする若い女性の心の成長物語……そうまとめたいが、これもうまくいかない。そもそもルーシーは最初から大人しい主人公ではない。相手かまわず言うべきは言い、ピアノを弾けば場にそぐわない曲を選び、異性との交際も一人で決め、一人で宣言することに重きをおく。
 作中では当時の階級意識が随所に示されるが、それは上にも下にもわりあいたやすく破られてしまう。「葛藤」や「煩悶」がないのだ。よくわからないのだが、本作で描かれる階級差別はせいぜい同じミドルクラス(中産階級)内の問題で、アッパー、ミドル、ワーキングの壁ではないということなのだろうか。

 つまるところ、磨き上げんばかりに克明に構築されているわりに、あれこれ突き詰められる気配がない。
 作者は個々の人物の心理や行動を描きたかったのか、宗教とのかかわり合いや階層意識など人生観、世界観を語りたかったのか。後者にしてはそれぞれの人物が(脇役にいたるまで)のびのび、細やかに描かれ過ぎ、前者にしてはストーリー展開が観念的に過ぎる。
 それでも全体として見事な造形作品となっているあたり、さすが観念さばきなら熟練の国のワザ。などと決めつけても何を語ったことにもならないのだが。

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コメント

一晩ねかして読み返したら「うーん」な感じだったのでかなり書き直してしまいました。

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