鈍感さが招き寄せる 『痺れる』 沼田まほかる / 光文社文庫
沼田まほかるの文庫新刊『痺れる』は短編集。いわゆる「奇妙な味」の、不思議に怖い(たまにエロい)話が並んでいる。
だが、これだけ数が並ぶと、その創作技法の一端もうかがえようというものだ。
本書に連なる作品では、いずれも主人公の女性が少し、いーや相当に、「鈍感!」なのである。いかにもの危険な兆候に、隠された相手の思いに、さらには己の思いにまで鈍感なため、普通ならなんということなしに終わるトラブルがどんどん抜き差しならない深みにはまり、やがて大小のクライシスにいたる。
いくつかの作品で、彼女たちの鈍感さの背景には離婚や不倫などの説明があり、もしかすると作者はそれを「心が痺れた」状態として表題を付けたのかもしれない。しかし、そんな散文的な説明などなしでも、鈍感な女たちの暗転は十分に薄ら寒い。
もう一つ、本書の気味悪さを彩るのが、いくつかの作品に登場する小さな虫たちである。硬く乾いたヤモリ、ポトリと落ちてくる沼毛虫(う)、半分溶けかけた黒いナメクジ(うう)。
虫でこそないが、「普通じゃない」の主人公が何度も口にする「そうですよぉ」という相槌も実に気色気悪い。うっかり踏んでしまった虫のようだ。この主人公は他の作品の登場人物以上に鈍感!で、奇天烈な結末がいっそ爽快だ。
それにしても、「まほかる」という意味不明なペンネームの破壊力は凄い。
解説の文芸評論家 池上冬樹氏も、「まほかるは不安定な関係の心地よさを描きつつ」「さすがにまほかる、読者の鼻面をひきまわしていく」「まほかるらしい静かで不気味で温かな」「まほかるのことだから普通の不倫ものには」とファーストネームを連呼連発しているが、いくら作家としては新人でも、年長の女性つかまえて、どこか普通じゃない。さては沼毛虫に入られたか。
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