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2012/08/20

みんなで黒い甲子園 『砂の栄冠(9)』 三田紀房 / 講談社ヤンマガKC

Photo 甲子園は今日でベスト8が出そろった。好投手が多くてホームランが多いという、テレビ桟敷で見ているぶんには実に楽しい大会である。その高校野球といえば、『グラゼニ』最新刊の(6)に折り込まれた『砂の栄冠』のチラシが爆笑ものだった。

 曰く「今、もっとも黒い高校野球漫画」
 「野球漫画史上もっとも腹黒い主人公が暗躍する!」

 キャラクター紹介も「黒いエース・七嶋」はじめ、
 「黒い正捕手・ゴン」
 「黒い野球部長・小沢」
 「黒い女子マネ・遠藤欄」
 「ダメダメ監督・ガーソ」
 「黒いおかあさん」
 「甲子園のベンチで黒いみんな」

 みんな「黒い」のになんで監督だけ「ダメダメ」なんだ。「黒いおかあさん」怖いぞ。

 とはいえ、実のところ『砂の栄冠』の登場人物たちはそれほどダーティというわけではない。
 エース七嶋はじめ、ときどき打算的になったり、秘密をかかえたりする程度で、誰もがいたって純朴な野球好きにすぎない。
 それがなぜ「黒い」とまで言われなければならないかといえば、勝利のために手段を選ばないのはスポーツマンシップにもとる、というジュラ紀以来の教条ゆえである。しかし、大きな目的があるなら手段にこだわるほうがおかしい。本気で甲子園で勝利したいなら、最短、最大効率を目論み、出来ることは何でも手配しておくのが道理だろう。また、これまで高校野球マンガに集金とその使途という要素が描かれなかったのがそもそもどうかしていたのだ。机叩いて「なんでもありや!」バンバンである。

 なので、『砂の栄冠』はごく普通に主人公たちが勝ち上がる野球マンガとして面白い。そもそも野球マンガたるもの、敵味方の「権謀術数」こそ見ものなのだ。そうでなければ数的優位、身体的優位なチームが勝つだけだろう。

 そんな『砂の栄冠』だが、9巻では七嶋たちの甲子園緒戦に決着がつく。
 この1冊で一番トリップできたのは、9回裏2アウト、1点リードされて主人公がバッターボックスに入った場面、主人公が初球狙いでいることに気づいた相手チーム監督が画面奥でスーパーマンのように空を飛び、バックスクリーンの大時計に足をふんばって必死で時間を止めようとする、その2コマ。
 作者がときどき見せる、この、直接的にもほどがある比喩表現。ダサダサな煮っころがしテイストが胃の腑でシュールに醗酵して、ほんとたまりません。

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