女王様の憂鬱 『魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹 / 講談社ノベルス
前作『水妖日にご用心』が祥伝社NON NOBEL、1つ前の『霧の訪問者』は講談社ノベルス、その前の『夜光曲』は祥伝社NON NOBEL、さらにその前の『黒蜘蛛島』は光文社カッパ・ノベルス……と発行元も変化自在、ドラキュラもよけて通る「ドラよけお涼」こと薬師寺涼子の活字版は2007年以来、実に久しぶりの登場だ。
しかし、期待が大きすぎたせいだろうか、即日読み切ったものの、どうも今一つ……いや、全然すっきりしない。
第一に、文体がくどい。本シリーズは涼子の部下でノンキャリ警部補の泉田準一郎(三十三歳)がぼやきつつ語るのが基調なのだが、たとえば
私の上司は、つごうにあわせてハンマー投げ競技のハンマーのごとく部下を振りまわし、遠くへ投げとばすのだが、いちいち例をあげていると『南総里見八犬伝』より長くなるからやめておく。
などという回りくどい文体は朴訥、無趣味な泉田らしくない。
また、
これまで自分のことしか語ってこなかったのを、私は恥じなくてはなるまい。
は泉田が語り手としての自覚をもっていることを示していて違和感がある。
きちんと比較したわけではないが、初期の泉田の語り口と比べると、前作『水妖日にご用心』あたりから「声優が違う」「声が半オクターブ低い」印象だ。
シリーズものを多数かかえる田中芳樹、たまにしか手掛けない薬師寺涼子シリーズで泉田の口調をほかの誰かと混同してしまったのかもしれない。
第二に、ともかく敵が弱い。
本シリーズでは、涼子の女王様ぶりを強調するほどに敵はヘタレにならざるを得ないのだが、今回はとくにモンスターが情けない。どのようなモンスターかはネタバレになるので書けないが──と思ったら表紙にまんま載ってますね──ともかくシャアシャアと思わせぶりに登場した割にパッとしない。さらに、珍しく底知れぬダーティな悪役を持ち出してはみたものの、なんとなく涼子と直接対決しないままに終わってしまった。
睥睨はすれど対立はしない涼子の立ち位置からすれば、毎度敵との戦闘がスウィングしないのもやむを得ないところはあるのだが、それにしても本作では爽快感がない。ストーリーも何もかも半オクターブ低い感じだ。
なお、215ページの上段、ここは「日下は信じがたいという目をして涼子を見た」のほうがよかったのではないか。でないと、涼子が凌駕したことにならない。
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