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2012/05/13

探偵たちはぬるま湯でたゆたう 『Bluff 騙し合いの夜 ミステリー傑作選』 日本推理作家協会編 / 講談社文庫

Photo 2008年に国内で発表された短編ミステリから編まれた傑作選。背表紙によると72巻め、初巻『犯罪ロードマップ』が1974年発刊だからまもなく40年になろうという長寿シリーズ。
 しかし……。その読み応えは浅く、軽い。これが一年を通しての傑作というなら、寂しい限りだ。
 何が足りないのだろう?

 収録作8編中の4編は、読み終わって気がつけば夏の出来事だった。

  「八月に入り、連日猛暑日が続いていた」
     (「熱帯夜」曽根圭介)
  「猛暑日と熱帯夜が続いていた」
     (「前世の因縁」沢村凛)
  「まだ残暑が厳しく、この日も気温が三十度を超えていたが」
     (「見えない猫」黒崎緑)
  「二十二度くらいに冷やされた店を出て、三十度以上になった屋外に出ると」
     (「音の正体」折原一)

 しかし、通して読んでもいっこうに汗ばむ気遣いがない。これら季節を表す表現がただ「記号」に過ぎないためだ。「頬をさす寒風が吹きすさんでいた」と置き換えても出来栄えはあまり変わらないかもしれない。

 『犯罪ロードマップ』が発刊された1974年には、平塚のピアノ騒音殺人事件が話題となった。「たかがピアノの音で人殺しとは!」と当時世間は驚いたものだが、その後、周囲からは理解しがたい動機による殺人がごく普通になっていく。つまり、隣人は「よくわからない理由でいきなり」誰かを殺してしまう人だったのだ。とはいえ、事実がそうだから、と、フィクションまで「よくわからない……」では、少なくとも読み手を圧倒することはできない。

 つまり、現代の若手ミステリ作家は、登場人物に一線を越させる確かな理由を、現実の手本から見つけ出すことができていないのかもしれない。そのため、作中の季節感も、殺意も、トリックも、すべてプラスチックの積み木の清潔なピースのようになってしまい、作品の優劣はただその組み合わせの是非でしか競えない。「熱帯夜」の頭でっかちなオチなど、その最たるものだ。

 結局のところ、『Bluff 騙し合いの夜』のつまらなさは、現実に即しているといえば即しているのかもしれない。犯罪はもはやドラマにもパズルにもなり得ない、そういうことだ。



 
 
 
 ところで、巻頭の伊坂幸太郎の「検問」は短篇としてこれで完結しているのだろうか? 金の出所、警官の検問など、重要な伏線が何一つ解明されていないようにしか見えないのだが。

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