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2012/04/09

萩尾望都をめぐる雑感

☆彡 萩尾望都はかつて誰よりも熱心にその作品を隅々まで読み返した作家の一人なのだが、あの時代の少女マンガについてはあまりにも個人的思い入れが深すぎてうまく書くことができない。

 

☆彡 ただその頃、熱心なファンの一人として「かわいそうなママ」や「小夜の縫うゆかた」や「10月の少女たち」や「秋の旅」や「あそび玉」や「ドアの中のわたしのむすこ」、そしてその後の一連の「ポーの一族」シリーズや「トーマの心臓」や「百億の昼と千億の昼」を、いずれも掲載雑誌から切り抜いて集めては、金魚鉢の中で飽かず口をパクつかせる出目金のようにひたすら繰り返し読み明かした日々を思い起こすばかりだ。

 

☆彡 「すきとおった銀の髪」「ポーの村」とバンパネラについての叙情的作品を描きついでいた萩尾望都が叙事的文体を手に入れたのが「グレン・スミスの日記」だった、ように思う。たった16ページとは思えない、大河ドラマ並みの骨太ストーリー、人の十年を一コマで描く雄弁な線。

 

☆彡 「グレン・スミスの日記」に比べれば、後日評価の高まった「トーマの心臓」は叙情的絵柄で、おまけに必要以上に長尺だったため(さらに線が不安定で)、むしろ退行に思えたものだ。

 

☆彡 「ドアの中のわたしのむすこ」は近未来のミュータントが混在する世界を描く短編SFファンタジー。短いが、作品としての重要度はのちの「銀の三角」などより上かもしれない。ミュージカルなストーリー、セリフ、テンポ、いずれも素晴らしいが、各コマにおける各キャラの目線の描き分けがすごい。カラフルな目線。目線の輪舞。
(登場人物の目線をレーザー光線のようにラインマーカーで塗り分けてみるとおわかりいただけるだろう)

 

☆彡 ところで、夢野久作に、ハウプトマンの「沈鐘」を翻案したと思われる「ルルとミミ」という絵本がある。萩尾望都のデビュー短編と同じタイトルだ。萩尾望都の評伝等で扱われたのを見たことはないのだが、夢野と同県出身の萩尾望都は、この絵本を読んだことがあったのかもしれない。

 

☆彡 「ルルとミミ」というタイトルだけでなく、すきとおった水の底を冷たくなった少女が流れていくさまは、萩尾望都ののちの(絵本的な短編)「みつくにの娘」を思わせる。

 

☆彡 また、夢野の「ルルとミミ」の最後の1行「――可哀そうなルルとミミ……。」が、やがて「かわいそうなママ」というタイトルに遷移した、と想像してみるのも悪くない。

 

☆彡 「雪の子」や「かわいそうなママ」は、一条ゆかりはじめ、掲載の数ヶ月後の少女誌に明らかにその影響を受けたコマやセリフが頻発した傑作。後者に描かれた階段の曲線は、平面に描かれた音楽、ヴァイオリンの旋律だった。

 

☆彡 シーンのパクリといえば、「秋の旅」の、バラの棘が少女の指にささって、のシーンも、その3、4ヶ月後、各少女誌にそっくりなシーンがあいついで掲載されたものだ。

 

☆彡 萩尾望都の描く男性はなぜか皆落ち着きがない(か周囲の状況や他人の感情にひどく鈍感か、どちらか)。慌ただしい人物は物語を動かす燐寸にもなるが、ときにはうとましい。「バルバラ異界」など、もう少し主人公が沈思黙考する場面があってもよかった。「左ききのイザン」に登場する男性は二人しかいないのに、二人とも気が短いことでは同様だ。

 

☆彡 「11人いる!」とその続編も、登場人物全員がバタバタしていて苦手だ。同じSFでも「あそび玉」や「6月の声」のように事態が明らかになればなるほど登場人物が冷静になっていく作品のほうが好もしい。

 

☆彡 とはいえ、作者のコメディが楽しくない、というわけではない。「3月ウサギが集団で」や「キャベツ畑の遺産相続人」は同じドタバタでも楽しくてしょうがない。

 

☆彡 COMに掲載された「ポーチで少女が小犬と」と「10月の少女たち」は岡田史子のいくつかの作品と同様、リアルタイムに読むことができた。相当幸福な経験といってよいと思う。

 

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