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2012/04/01

至福の夢、両手一杯の花束 『大島弓子全作品BOX 白・綿の国箱/緑・ミモザ箱』 グーグープロジェクト編 / 小学館プロダクション

 今朝、宅配便が大きな荷物を届けてきた。抽選に当選し、(ちょっとした覚悟の上)申込ボタンをクリックしたのは確か3年ほど前のことだったか。今日、ようやく──とうとう、届いたのだ。

 大島弓子のこれまでの作品をすべて網羅したBOXセットである。集英社、小学館ほか各出版社協力のもと、大島弓子の熱烈なファンを自負する作家、アーティスト、編集者らが「グーグープロジェクト」を組織、制作・販売は小学館プロダクションがあたった。限定300セット、価格は税込みで525,000円! 稀覯本なら知らず、およそ新刊のコミック全集にふさわしい価格とは言い難いが、以下に紹介する内容を知れば決して無茶な値段でないことはご理解いただけるのではないだろうか。

 『大島弓子全作品BOX』は一抱えではおさまらない大きな段ボールの箱2つからなるセットとなっている。
 まず「白・綿の国箱」と刻印された白い箱を開けてみよう。
 こちらには、デビュー作「ポーラの涙」から最近のサバ、グーグーシリーズにいたるまで、大島弓子の全作品が、すべて発表された雑誌サイズで収められている。当時の週刊誌、月刊誌の欄外のキャッチや次号予告まですべて再現されているが(白、ピンクといった紙の色、インクの色まで掲載当時のままらしい)、もちろん冊子からの起こしではなく、できる限り原画を版下とし、かつデジタル処理がなされているとのこと。描線は非常に美しく、大島作品ならではのたどたどしくも揺れる心理を再現している。
 個人的には、1972年に週刊マーガレットに発表されたのち、なぜか一度も単行本に収録されなかった「さくらさくら」との再会が嬉しい。実はこの作品、一時は雑誌からの切り抜きを手にしていたのだが、何の気なしに親しい友人に渡してそれっきりになってしまっていたのだ。……
 その他、マンガ文庫にしか収録されず、大きな版型での再発が望まれていた作品も少なくない。
 この「白・綿の国箱」には、作品ごと180冊あまりの小冊子が収められていることになるが、各作品には専用バインダーが用意されている(たとえば「綿の国星」の22作品は表紙付き専用バインダー4冊に綴じるようになっている)。

 さて、問題はもう一方、「緑・ミモザ箱」のほうだ。
 こちらには、大小の冊子、20冊が収められている。この20冊を限定300セット印刷、製本するためにどれほどの手間と費用がかかったのか、全く見当もつかない。
 1冊、手に取ってみよう。昔の新潮社の純文学書き下ろしシリーズふう厚紙の箱に入ったハードカバーだ。深緑の布地の装丁に銀の字でバイロンの詩句よりとった『もう思い起こすな』の表題。おわかりいただけるだろうか。あの、大島弓子1972年の作品「雨の音が聞こえる」で、主人公早咲秋子の父親が芥木賞を受賞した、あの作品なのだ! 『もう思い起こすな』の脇には、同じく早咲名義の少し小ぶりな随筆集『今は酒がまわってますので』がある。この2冊はグーグープロジェクト主要メンバーの編集者が、純文学の重鎮に大島弓子の作品を無理やり読ませ、匿名(大島作品内での名義)での発表を了解させたものなのだ!
 一方、赤い花とティーカップの小洒落た写真をあしらったエッセイ集『午後のローズティー』の著者は山上愛。大島弓子初期の傑作「鳥のように」の主人公だが、このエッセイ集にいたっては作中に主人公のエピローグのつぶやきに「今はものかき」とある、ただそれだけをヒントに、と、あの賞と映画化で知られる女流作家に依頼がなされたとのこと。本人はノリノリで書いたと漏れ聞くが、仕上がりはいかがなものか。
 次の1冊、『野いちごの国境』。一見乙女チックなタイトルながら内容は北欧、ラップランドの政治や経済、歴史、文化の硬派なルポルタージュ。著者は生田林太郎とあり、一瞬誰のことかと思ったが、そうか「いちご物語」のりんたろーっではないか。なるほど、文学ではなくその方面に進んだのか。
 マンガもある。「さようなら女達」で主人公館林毬が一夜のアシスタントを務めたあの作品である。作者がどんな修羅場でも「ベタにむらをなくすこと」を主張するだけある、きりっとした作風だ(もちろん、隅田名義にはなっているが、ページを開けばあの著名女流作家の仕事であることはすぐわかる)。ただ、同じマンガ作品を入れるなら、毬本人が懸賞に応募し、人の心を読めないことから最後の1ページを失敗してしまったという、そちらの作品もぜひ読んでみたかった……。
 続くユーモア小説は、ご存知「綿の国星」で須和野父が
   ドアか?
   ドアだ…!!
   開くか? 開く!
   開く!
   開くぞ!!
   開いたぁっ

とあちらの世界に行ってしまって書いた、あの超有名作だ。ぱらぱらめくった限りでは、最近亡くなったとある大物作家の手によるものかとも思われるが、どうだろう。
 このユーモア小説に加え、チビ猫の挙動について賭けをして須和野一家が危うく立ち退くことになりかけた、あのハードボイルド作家の手になる作品まで入っているのもご愛嬌。表紙の写真はもちろんペルシャの砂漠だ。

 その他、オリジナル作品だけでなく、大島弓子作品で引用されて印象深い作品のいくつかが、抄とはいえ大島弓子のカットをふんだんに用いた冊子になって収められているのも嬉しい。「ジョカへ…」のファウスト、「星に行く汽車」などのスティーブンソン詩集、「野イバラ荘園」の与謝野晶子詩集、ツルゲーネフの「初恋」やドストエスフキー「罪と罰」などなどなど。

 どうだろう、これで50万なら、決して高いとは言えないように思うのだが。

 大島弓子の作品は最近も選集としてときどき再発行されているようだが、その対象は主に「綿の国星」の映画化で有名になって以降の作品だ。しかし、大島弓子の描く人物が最も自由にページの中を走り回り、読み手を揺さぶったのは1972年から1974年にかけての3年間ではなかったか。もっと気楽に当時の傑作が読めるようになってくれるとよいのだが。……

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