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2012/04/20

大人専用ライトノベル 『張り込み姫 君たちに明日はない3』 垣根涼介 / 新潮文庫

Photo 作者が主人公、村上真介を放り込んだ箱が面白い。
 企業の人員整理、つまりはクビ切りを専門に請け負うコンサル会社のエース社員として、さまざまな企業に乗り込み、整理対象社員の一人ひとりと面談していくという役柄なのである。依願退職を勧められたベテラン社員に怒鳴られたり、お茶をぶっかけられたり、くらいは日常茶飯事。道を歩いていていきなり殴られることもある。

 作者の取材は手堅く、いろいろな業種、職種の厳しさ、悩み事、裏や表が折々に生々しく描かれる。それだけでもそこそこ興味深く読めて、そこに少し不思議なところのある整理対象社員が現れ、面談を重ねるうちにその企業の黒さ白さ、整理対象社員の人となりが見えてくる。

 愉快な話とは言いがたいのに、それでも読後感が爽快なのは、その企業に必要なリストラクチャ(再構築)の意味を問い、個々の従業員の雇用の意味を確認していく工程が、やがてその企業のみならず(主人公をも含む)各個人の人生のリストラクチャのきっかけ、つまり人生の見直し、洗い直しにつながるためだ。面談に招かれた各話の登場人物は、最終的にその企業を辞めてしまうこともあれば、辞めずに踏ん張るケースもある。いずれ無傷ではすまないが、それでも彼らはブラッシュアップされ、新たな人生に向けて胸を張る。

 いくらでも重く書けたであろうこのシリーズに、能天気で行動的な真介を配したのがいい。その周辺に、真介同様楽天的だが年長ゆえに若干は思慮深い恋人陽子、少し得体の知れないリストラ請け負い会社社長(NHKでドラマ化された際は堺正章が好演、というか怪演)など適度に色濃い脇役をかため、ここまでシリーズ3冊、いずれも読み始めると寝食を忘れる。

 ネットの感想欄など見ると、本シリーズ、実は垣根涼介ファンからは必ずしも好評とは言いがたい。『ワイルド・ソウル』『ヒートアイランド』などの代表作に比べ、うねるような展開やスピード感に欠ける、主人公に魅力がない、などなど。それは当然だろう。大金を狙うギャング団との抗争や世界をまたにかけた冒険に比べれば、しょせん景気の悪い一企業の狭苦しい会議室で「今なら退職金が優遇されますよ」とか、そのような話である。企業を舞台にしたライトノベル短編集と割り切ってさらさら読み流すとよいだろう。
 だが、ライトとはいえ本シリーズはあくまで大人向け。思いがけない展開や働くことについての含蓄にときどき「おっ」と声が出る、ちょっとだけ目がうるむ、それはそれで一興。

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コメント

個人的には、日本の企業と企業人はもう少しリストラに慣れるべきかな、と思います。
大赤字が明らかになってから「あわわわ」と従業員削減、て、それはただの切り詰めで、リストラクチャではないでしょう。
肩叩きされるほうも、平穏な日々の中で、自分が本当にそこで必要とされているかどうか考え、何があってもよいよう準備をしておくべき。
などなど、このシリーズはいろいろな意味でとても参考になります。
(という実用性のための本ではないのでしょうが)

作者の本質がリストラ請負人ですから。

ネットで垣根さんの記事をいろいろと読んでいたら、
バッサリな記事を見つけてしまいました。
http://www.birthday-energy.co.jp/
作者がリストラ請負人なら、作品の出来は間違いないですねぇ。

大人向けライトノベルなれど、根は真面目で、潔さとかを
感じます。
『勝ち逃げの女王』も出たみたいですし、また世界観に
浸ってみようと思います。
・・・自分が同じ目にあったら慌てるなぁ。リストラかあ。

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