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2012/03/18

原作に敬意を払った良作 『アバンチュリエ 新訳アルセーヌ・ルパン』(現在2巻まで) 森田 崇 / 講談社イブニングKC

Photo モーリス・ルブランが創生した怪盗紳士アルセーヌ・ルパンを、原作にかなり忠実、つまり正面から描いたチカラワザ。タイトル「AVENTURIER」はもちろん、コマ中の新聞や手紙、名刺、各章の「章」も「CHAPITRE」とすべてフランス語だ。

 連載開始当初は永井豪ふうの大げさな絵柄、人の好さげな登場人物に少々古臭いものを感じないでもなかったが、単行本で通して読むと実にいい。ことに、若く穏やかな紳士に変装したルパンが怪盗紳士の本性をむき出しにするときのエキセントリックな目がいい。見事脱獄を果たし、ガニマールを傍らに両手を挙げて爆笑するシーンも「アーハッハッハ… ゲラゲラゲラゲラゲラ」だ。今どき「ゲラゲラ」と笑うヒーローなんてちょっと見ない。ルパンならではのマンガ的痛快さで、それも好もしい。

 ともかく、ルパンが若くてスリム。
 どうもルパンというとシルクハットにモノクル(片メガネ)、マントまではともかく、ヒゲでマッチョ、顎のがっちりした中年怪盗のイメージがあったが、「あの気随気儘な、神出鬼没の変幻自在な、大胆不敵な、天才的な」(『813』、堀口大學訳)キャラクターをかんがみると、やや痩せ気味、尖った顎のほうがふさわしい。「体はクラリスに負けずほっそりしているが肩幅は広く、気品とたくましさが同居している。精悍な顔つき、いたずらっぽい口もと、陽気に輝く目」(『カリオストロ伯爵夫人』、平岡敦訳)、うん、森田崇の解釈は正しい。

 もう一つ、言葉遣い。
 創元の石川湧やハヤカワの平岡敦訳はともかく、新潮文庫の堀口翁訳では、たとえばケープタウンのダイヤモンド王に対峙して「へえ、そうか! こいつ、わしをなめてるな、小なまいきに」「あんたにとってはそうかも知れないが、このわしにとってはどうだろう?」(『813』)、これはあんまりだ。古くさいし、「紳士」ですらない。
 現代では『アバンチュリエ』での「僕」が自然だろう。

 本作の魅力の一つは、そういった風貌や言葉遣いをはじめ、あれこれ原作との読み比べに十分耐えることだ。細かなオカズ(パリ万博を『坂の上の雲』のあの人が歩いている、など)や、ホームズとの対決を描く「金髪夫人」のエピソードで、数学教師ジェルボワとルパンの新聞を用いての「丁々発止!」感など、原作と比べてはじめて『アバンチュリエ』での作者の工夫やテクニックが納得できる。

 アルセーヌ・ルパンは、その名こそシャーロック・ホームズ並みに有名だが、決定的な翻訳シリーズがないこともあって原作のエピソードの知名度は今一つだ。この『アバンチュリエ』は、もしかするとこの国でのルパン復権の鍵となるかもしれない。今後、『奇巌城』など長丁場が続き、大変かとは思うが、ルパンの長編は中小のエピソードをスピーディにつないでいく構造なので、連載マンガにも向いているかもしれない。ともかく連載の続きが楽しみだ。

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