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2012/03/28

コミック・エッセイにしかできないこと 『1年後の3.11 被災地13のオフレコ話』 ゆうみ・えこ / 笠倉出版社

311 遠まわしに書いてもしょうがない、ストレートに言おう。
 新聞、テレビなどの大手マスメディアは、東日本大震災に際し、一貫して被災地の遺体の写真、映像を避けて通した。その理由は理解できなくもないので、是非を問う気はない。
 ──だが、津波にのまれた人々の顔や手、赤い目印の下に眠る遺体を徹底的に排斥したカメラアングルは、震災の克明かつ全的記録とは言い難いものとなった。それは1つの事実だ。

 しかし、マンガなら。コミック・エッセイになら、それを描くことができるかもしれない。個人特定はされない。読み手の心の傷になるほどの苛烈な色や傷や腐敗具合は、選択的にぼかすことができる。濁流による死の瞬間も、遺体が積み重なった避難所の光景も、思うアングルから描けるだろう。

 『1年後の3.11 被災地13のオフレコ話』は、宮城在住のマンガ家ゆうみ・えこが、そのようなコミック・エッセイのメリットを活かし、新聞やテレビが扱うことのできなかった生々しい震災のありさまを描いた作品である。

 たとえば作者は、被災地のソープ街が盛況なことに眉を顰める人々に対して、

  ガレキの撤去に来ている人たちは過酷なのです
  重機を使ってガレキを持ち上げると…

と、ガレキとともにショベルカーに挟み上げられた遺体を描いてみせる。そのような仕事に疲れ果てた現場の労務者たちが“H”な行為に走るのは“生きている”ことの確認、人間らしいじゃないの、と作者はつぶやく。

 その他、遺体の指を切って指輪を盗む者、人群れを撥ねて逃げる車、無神経な報道カメラマン、震災泥棒等々、これでもかと筆者のペンは厳しい。
 しかし、本書は、いたずらにスキャンダラスな事実を暴くものではない。
 歩道の人群れを撥ね飛ばして逃げる車を目撃した女性は語る。

  本当に恐ろしいのは
  自分もやってしまうかもしれないことよ
  ──もし子供を乗せて逃げていたとしたら…
  もしかしたら私も…

 作者の心は常に被災地の人々に寄り添う。その語り口はナイーブで、不器用ながら前向きだ。うち続く悲惨な出来事の中で、静かに、誠実に光を求め続ける。
 この作品をこの1年の報道にあふれた「いい話」「悲惨な話」の一種と読み飛ばすことも不可能ではないだろう。しかし、そうして素通りできないのは、そこにリアルな遺体が描かれているからだ。それをそのように描く覚悟を決めた時点で、作者のカメラアングルは大きく広がったのだ。

 コミック・エッセイは、動脈硬化を起こし、形骸化した報道を砕く針となり得るか。なるだろう。ならなくてはならない。

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