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2011/11/07

『太陽の塔』 森見登美彦 / 新潮文庫

Photo_2 日本語の「詩」というものがどこに行ってしまったのか、よくわからない。
 久しくベストセラーがない。戦後すぐの「荒地」や谷川俊太郎以降、(よい方にせよ悪い方にせよ)局面を引っ張っていけるリーダーがいない。だが、それより何より、言葉が骨粗鬆症に罹ったかのように、密度や味わいを喪ったかのように思われることこそが問題だ。

 たとえば暮鳥に「いちめんのなのはな」という詩句がある。かつてその詩句に触れることは

 この言葉を知ってしまった以上、
  己の人生は変わってしまうに違いない
 この言葉を知らしめることで、
  世界はまるきり変わってしまうに違いない

そんな重みをいやがおうにも抱えてしまうことだった。「やめるはひるのつき」とまで示されてしまえば、もうとどめを刺されたも同然、という気がしたものだ。
 これらの詩句そのものの力がなくなったかといえば、それはよくわからない。たとえば朔太郎や賢治の一行一行の価値が減じた、とは認めたくもない。しかし、少なくとも今、新しいものも古いものも「詩」には、それを読む時間を割くだけの引力がない。またそれはどうやら自分だけの問題ではないように思われる。

 そんな中、久しぶりに「詩」を読んだような気がした。
 森見登美彦の『太陽の塔』という、京都を舞台に何かとうまくいかない休学中の大学生のオロカシクも妄想たくましき日々を念々と描いたファンタジーとも私小説ともつかぬ作品の、文庫でいえば226ページから227ページの見開きの一ブロック。主人公がかつての恋人を語る一節だ。思い込みとプライドの強い主人公とその友人たちの、ユーモアを交えた不協和音の連続が、そのページにいたって突然変貌する。そこではピンク・フロイド風の繰り返しで、水尾さんというたおやかな恋人がカットバックされていく。散文ふうな詳細説明でありながら、書かれていない領域まで水尾さんが切なくも美しく描き上げられる。
 この一節の魅力は明らかに散文詩の領域だ。このような現れ方ができるなら、日本語の「詩」はまだ期待できるということなのだろうか。

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