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2011/10/03

人外の別れ 『25時のバカンス』 市川春子 講/ 談社アフタヌーンKC

25「シマッタ」
 思わず声が出た。
「見テハイケナイモノヲ見ツケテシマッタ」
 書店の棚に市川春子の新刊を目にしてしまったのだ。『虫と歌』に続く、2冊めの作品集である。

 『虫と歌』に収録されたあの「日下兄妹」に匹敵する作品を同じ一人の作家が描けるはずがない。そんなことはあり得ない。だからこの新刊は『虫と歌』に比べれば劣っているに違いなく、がっかりするためだけにこの読みづらい作家の作品集を読むことにどれほどの意味があるだろうか。いや、ない。

 ……意味はあった。

 前後編で100ページあまりの表題作『25時のバカンス』が、見渡す限り悩ましい。読み終えてすぐ最初のページに戻る。また読み返す。当初は読み逃していたもの、二度では理解できなかったものがほぐれてくる。身体を満たす。

 今回もキーとなるのは人外の存在である。設定がすごい。設定に乗せた展開が躍る。あやうく(ありていに言えば素人くさく)見えて一つひとつ技をこらしたコマ運び。真っ黒な絶望を白い果実のかたちに切り抜いてみせる絶妙なセリフ回し。

 「入るだろうか」「荷物?」「いやおまえ」
 「30越えて姫とかさあ」
 「ちょっと! モデルさん内臓しまって下さい! いかがわしいですよ!」
 「なるほどではありませんね 間違えました」
 「あの 僕 本当は弟じゃないんで」

  (ことに「なるほど…」と「あの 僕 …」の2つがすごい)

 人外の存在であるならば人間ではないのだから(同語反復)、人間と同じ感情、同じ論理をもって考え、行動するとは期待するほうがおかしい。ミトコンドリアが恋をするなら、OLの恋とは起承転結まったく異なる様相を示すのが道理だろう。
 市川春子はその道理に応える。人外のモノの言動は推し量れない。彼らの言葉や行為は、対する者にとって突拍子もないものとなるだろう。いくらその姿が家族や友のようであっても、内実は別のイキモノなのだから。
 しかし、人の姿、人の声で語られる以上、愛する者、あるいは作品の読み手がそれを人としてのあってほしい言葉と取り違えたがるのも、またやむを得ないことだろう。

 では、「日下兄妹」や「25時のバカンス」で描かれる(あるいは予感させる)「別れ」とは、人と人の「別れ」なのか、違うのか。
 市川作品の読解を困難にしているのはまさしくその構造であり、僕たちは描かれた「別れ」の哀しさその他もろもろに決着をつけることができず、ただうろたえるばかりなのだ。

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