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2011/09/20

そこに死がある 『猫鳴り』 沼田まほかる / 双葉文庫

Photo_5 シンプルなタイトルや穏やかなカバー絵に騙されてはいけない。この作品は読者を蹂躙する。

 第一部の視点の主、信枝は、家の近くに捨てられた仔猫の声に「ああ、いやだな」と眉をひそめる。四十歳の彼女は、雇われ大工の夫藤治との間にさずかった赤ん坊を流してしまった。スーパーマーケットの軽食コーナーの母子の姿に息苦しくなる信枝。六ヶ月間胎児のいた腹の内側に、今は「空っぽの底なし井戸」が口を開けている。信枝は仔猫が「カラスが見つけなくても朝までに死ぬだろう」と思う。彼女は仔猫を引きはがすように捨てにいく。戻ってきた仔猫をさらに遠方に捨てにいく。

 『猫鳴り』は3部構成からなっている。
 同じ猫が登場する点を除くと、第一部と第二部、第二部と第三部との間にあまり関連付けはない。細かな関連付けを施し、10パートばかりからなる連作短編集に仕立て上げることなど、作者にはたやすかったはずだ。だが、沼田まほかるはそれをよしとしない。無理やりな関連付けやプロットを切り捨てることで、人物本人でなく本人の抱えた痛みばかりを乾いた骨を刻むように記す。描写はあるが説明はない。第三部、藤治はすでに信枝を亡くし、やがて猫を失う。年老いた猫が食を絶って最期を迎えるさまは、厳粛にして壮絶だ。だが、ただ一人3つのパートに少しずつ顔を出す仔猫の元の持ち主だったぶっきら棒な少女の描かれない痛みもまた(おそらく)凄まじかったに違いない。

 人生が、死が、許しが、猫好きなら、そうでないなら、など、うかつな解釈を推しはめるのは避けたい。苛烈な表現に、展開にただ圧倒され、身動きならなくなることこそ、『猫鳴り』の自然な読み方のように思われてならない。

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