「実録」と銘打つ甘さ・辛さ 『百物語 第十夜 実録怪談集』 平谷美樹・岡本美月、『怖い本<9>』 平山夢明 / いずれもハルキ・ホラー文庫
今年の夏の新刊怪談本のポイントの1つは、東日本大震災にどう向かい合うかにあった。
平谷美樹・岡本美月『百物語』の第十夜では、地震から2週間後の採話会(=百物語の会)において地震前後の話が出たため、と、巻末にコーナーが設けられている。いくつかは地震直前の不思議な徴候、いくつかは地震前後に見られた不可解なできごと。ただ、その大半は単なる自然現象や見間違いと指摘されても仕方のないレベルのもののように思われる。
『百物語』シリーズは「実録怪談集」をうたい、「体験者の恐怖をできるだけ脚色せずに記録することが目的」と記している。逆にいえば、体験者の語った内容について一切検証はなされず、作り話だろうが人から聞いた話だろうが、そのまま垂れ流すことになる。「実録」とうたうなら、「自分が学生の頃に住んでいたアパートで」と体験者が語り始めたとき、せめて「何年のことか? 何市何町の、何というアパートか?」くらいは問い質し、動じずに返答できるものだけ掲載する程度の厳しさは欲しい。そうでなければ、「採話者(平谷美樹・岡本美月)が誰かから直接聞いた」という事実以上に「実録」の意味はないことになってしまう。
『百物語 第十夜』と同日に発売された『怖い話』において、平山夢明は、震災の怖い話について、
現段階ではさほど多くは上がってきませんし、耳にしたもののなかでも特筆すべきものあるいは、書き留めて出版するタイプのものはありませんでした。
と述べている。
つまり、「ロクなものぁなかった」と切り捨てているのである(と直接口にしているわけではないが)。では、「ロクなもの」とは何か。
平山は「『怪談』とは『怪を愉しむ』ものだ」と定義する。そして「あまりに悲劇的であり、言語を絶する状況はこの『愉しむ』という点で人の心をセーブさせる」と読む。明快である。つまり平山にとって、単に「採話者(平山夢明)が誰かから直接聞いた」だけでは「実録怪談」とは言えず、「怪談」足るには、それが語る人、聞く人、さらには読む人を愉しませるものでなくてはならない、ということか。
震災の逸話を排した『怖い話』には、その結果、たとえば「黒猫」のような怖い話が含まれる。逆に「黒猫」は「怪談」として出来すぎていて、「実録怪談」の素朴な味わいはもはや期待できない。
「実録怪談」としての是非を問うべきか、怪談としてのピュアな品質を問うべきか。だが、「実録」をうたう『百物語』が「実証」「検証」を問わない以上、実は両者は同じまな板の上にいる。ならば少しでも怖いほうをより高く評価すべきだと思うのだが、どうか。
いずれにせよ、すでに刊行を終えた『新耳袋』はじめ、『百物語』が十巻、『怖い話』が九巻。平山らの都会のサイコパス系シリーズも巻を重ねてややマンネリの感あり。そろそろ何か新鮮な切り口が欲しいと考えるのは贅沢だろうか。
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