『怪談実話 無惨百物語 ゆるさない』 黒木あるじ / メディアファクトリー MF文庫ダ・ヴィンチ
秋口に差し掛かって発売されたものだが、これも「実話」をうたう怪談集の一つ。
実録怪談系の文庫としては相当厚手だが、紙の斤量のせいなのか、実はさほどでもない343ページ。それで百話掲載(九十九話ではない)を敢行しているのだから、一話一話はごく短く、1ページに満たないものも少なくない。
最初のうちはその短さが仇となって「こんなものか」感が続く。怪談、心霊体験談より、小さく捏ね上げたワンアイデアストーリー、下手するとO・ヘンリーばりの人情噺と見まがう小品まで並んでいる。少なくとも神経がひりひりちぎれそうな怖さは得られない。
中盤までには少し長めの作品も用意されるが、それで数ページ、いずれもやはりそう怖いものではない。
──などと思っているうちに、いつの間にか部屋の空気が沈み、家のあちこちから音が聞こえる。心霊現象というわけではない。冷蔵庫で氷が落ちる音、風呂場でモップが倒れる音、雨が外壁を打つ音。つまりは読み始めた時分に比べるとこちらが過敏、臆病になっているようだ。
さほど怖くない話でも、数読むうちにだんだん雰囲気に浸ってしまうため、かと思う。
だが一方、もしやという気もしないでもない。つまり、百話も集めてくるうちには、いくつか「本物」を拾ってきてしまうことだってあるかもしれない……そういうことだ。そう考えると、思い当たるふしもある──あれと、あれが、怪しいといえば怪しい。
人が人に怨みを残す「幽霊」は、実はまだいい。「神様」と称されるモノのほうが、怖い。
幽霊は相手を見るが神は相手なぞ気にかけない。「祟り」にはそもそも「精密なコントロール」などという概念はないのだ。
とはいえ、読み終えてしまえば部屋の温度も元どおり。ぱらぱらとめくり返してみれば、怖い話より震災に起因する「第九十六話 鼻歌」が心に残る。これに限れば怪奇的要素などなくともよかったのではないか。
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