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2011/08/21

神は細部に宿りまくって 『エマ』(10巻完結)、『乙嫁語り』(現在3巻まで) 森 薫 / エンターブレイン BEAM COMIX

Photo_2【……… 嫁心ついたね】

「(読みかけていた本を閉じ、ため息をつく)ふう。不勉強でした」
「おや、珍しくしおらしい。明日は真夏の雪か」
「(無視して)エンターブレインのBEAM COMIXのラインナップは、編集者のこだわりなんでしょうか、描線に特徴があるんですねえ」
「うむ、腰の線とか、胸の線だな。ボンキュッパッ」
「(無視して)最近は商業誌でも、いかにも絵がヘタ、というマンガ家も少なくないし、巧いなら巧いで、デッサン風というか、細かな線をたくさん散らすモヤっとしたタッチもよく見受けられます。それに対し、BEAM COMIXでは、顔の輪郭や指先、髪の毛、背景から小道具にいたるまで、1本1本の線をクリアに描くマンガ家が評価されているような気がします」
「あと足首。夏は肩や、そうそう腋の線も気になるよね」
「(無視)その中でも、『描き込み魔』とまで称される森薫、この方の描き込みが、本当にすごい」
「メイドね。メガネっ娘ね」
「っと、ようやく話題が噛み合ったと思ったら、そこか」
「だいぶん前に読んだ。おばさんおじさんがいっぱい出てきて誰が誰だかだったぞ」
「森薫の代表作『エマ』は、メガネをかけたメイドをヒロインに、ヴィクトリア朝の英国の生活、ロマンスを細やかに描き上げた大作。後半の濃密な盛り上がりには圧倒的なものがありましたが、いかんせん僕はあんなふうに耐えるヒロインは苦手で、単行本も一度は揃えたものの、そのうち手放してしまいました」
「番外編の8、9、10巻は隠して置いてあるくせにー。お・こ・の・み、は、誰かなー」
Photo_3 「そ、その森薫の現在連載中の作品が、『乙嫁語り』。これがまた、というか、さらに、すごい。舞台は19世紀後半の中央アジア、いわゆるシルクロードですね。その、定住民の一族の12歳の少年に嫁いできた20歳の乙女が主人公。このアミル、作者言うところの『明日死んでも悔いのないキャラ作り』で、
  弓が上手
  姉さん女房
  なんでもさばける(鶏とか兎とか)
  野生
  天然
  強い
  でも乙女
  でもお嬢様
と、同じく作者いわく『清々しいまでに全部ブチ込んでありますね』」
「いやー、馬に乗って弓矢かまえて、兎は獲るわ、狐は獲るわ、鹿担いで帰ってきて『よく太ってますし メスだし きっと美味しいですよ』だもんなー」
「そんなキャラ立ても魅力的ですが、それを描いたコマがすごい。たとえば、登場する女性は老いも若きも全員、髪飾り、耳飾り、首飾り、刺繍ほどこした服、全コマすべて省略なしに描き込まれているのです。さりとて、描線に溺れるでもなく、作品としてはきちんとマンガになっているんですね」
「まあ、無口なヨメではあるが」
「確かに、『エマ』においてもそうでしたが、森薫の描く人物は概してお喋りではない。というか、マンガの読み手へのサービスとしての説明的なセリフは一切口にしない。顔の表情も記号的ではないので、一度読んだだけでは、ある場面でその人物が怒っているのか喜んでいるのか嘆いているのかわからない。それが、繰り返しページを繰るうちに、だんだんわかったような気になって、ああそうか、そういうことか! と思えてくる」
「いい歳した男が、若妻に感情移入……けっこうブキミじゃね」
「(無視無視)作者は仕事をしている間はキッチンタイマーを手元に置いて、1コマに15分以上かけないよう気をつけているそうです。おそらくそうしないと線を描くことが優先してしまって、物語が動かなくなってしまうのでしょう」
「一族に伝わる刺繍だとか、木彫細工つーのか?これ。模様だけの見開きがあっちゃこっちゃに」
「それに加えて無口な登場人物たち、とくればお話も地味かな、と思われてしまうかもしれませんが、これがなかなか濃い。嫁ぎ先の食事の仕度の場面にしてもちょっとした緊張感があるし、あっという間に部族間の抗争が始まったり、と、大小のエピソードは心理戦含め、なかなか苛烈なんです。何か、日本人離れしたものさえ感じますね。最新の3巻は英国からきた研究家スミスをメインにたて、おまけにやや半端なところで終わっていますから、とりあえず1、2巻を手に取っていただきたいですね。この2冊だけでも読み返し読み返しで1週間以上楽しめます」
「まーねー、でも19世紀じゃ、水着のねーちゃんは出てこないし」
「いや、それが、作者は女性ですが、女性の裸を描くのは大好きなようです」
「そういうことは、は、早く言いたまい。どこ? どこ? どこどこどこどこ?」
「……アミルさん、うるさいので弓矢でぴしぴししちゃってください」
アミル「……ハイ」

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