『現代百物語 生霊』 岩井志麻子 / 角川ホラー文庫、『現代百物語 忌ム話』 西浦和也 / 竹書房文庫
百物語ですか、と問われ、読みかけた本を伏せてああでもなければううでもない生返事を返す。夏ですもの、ね、女はしたり顔でうなずき、硝子コップの麦茶の氷がカロンと鳴る。風が湿り気を帯び、蝉の声が途絶えた。
二冊とも同じ方の。そう思われるのも無理からぬが、作者も出版社も違う。少し前によく流行った『新耳袋』なる草紙も「現代百物語」と副題がついて、いやそんなことを今さら唱えてもらちがあかぬ。百物語とは、もはや短い怪談を百に一欠ける九十九集めた本、という記号に過ぎない。
そのご本、怖い?
そんなに怖くはありません。
怖くはないのですか。
そうですよ、怖がるようなものではない。
実話系と称される怪談本の書き手たちは、何百という怪談をかき集めては切り揃えるのに倦んでしまったのか、もう部屋の空気がさぶくなるような怪異など滅多にみられなくなった。あら、じゃあ、なぜそんな本をわざわざ買ってきてもらって読んだりするのかしら。振り向かずとも女の唇の端に微かな悪意が透けて見える気がするが、それは昼から紅がきつすぎるせいに違いない。そうですね、これはもう習慣のようなもので、夏になるとアンズやスモモを一度は食べないと気がすまないのと変わらない。アンズがアプリコット、スモモがプラムでしたっけ。さあどうでしたろう、区別ができて美味しいわけではない。皮をむく指にぽたぽたとしたたるのにかぶりつく。口をぬぐう指は自分のものか女のものか。
しいていえば岩井志麻子の怪談本は、一年に一夜味わう熟れたスモモのようなもの。夜伽する女に、自ら体を寄せてくるのはそのときだけで普段はそっけないのと、時分どきからこちらの手首の時計に手を添えてみたり、笑い上戸にシャツの衿に顔を寄せてきたりするようなのがいるが、これはまさに怪談についてそのような本。中身は前の『現代百物語』の引き写し、嫌な女がしつっこく夢に現れるとか、嘘ばかり吐く整形女だとか、新味ない話ばかりなのだけれど、湿った言葉遣いが足に生足をからませ、尖った爪が背中をさする。
なんだか、汚くていや。女は白い眉間に皺を寄せ、こちらのご本は、と差す指を変える。
西浦和也のほうは、そもそも果実の味わいを期待してもしようがない。見えた、見えない、我慢できなくなって逃げ出した、といった話ばかりで、薄気味悪い話さえない。「今回のテーマは“忌ム”」とかいいながらふさわしい話などほとんど出てこないのも期待外れ。いけないのは怖い話の拾い方ではなく、ちょっと「出た」「聞こえた」話でも、平山夢明の語りの「間」になかなかいたらない、そちらの問題でしょう。
まあ、酷いおっしゃりよう。
しかたないじゃないですか、弱いものは弱い。
それなら読まなきゃよろしいものを。
そうですね、でも、読むのをやめてしまうと、あなたを怖がらせることができない。
この家でわたしを怖がらせて、どうするんです。
怖いのですか。
怖くなんて、ないわ。
ふん。ではこちらにいらっしゃい。
あら。
そう、その奥の座敷に入るのです。
怖いものを、見せて差し上げましょう。
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コメント
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みなさん、こんにちは。
「最新」とは、ここで取り上げている本のことでしょうか? 『現代百物語 生霊』 、『現代百物語 忌ム話』とも、この7月に発売されたばかりですが。
投稿: 烏丸 | 2011/07/11 02:22
最新いつ発売になりますか?
投稿: みな | 2011/07/10 21:15