饒舌なバルンガ 『空の中』 有川 浩 / 角川文庫
200X年。民間超音速ビジネスジェット「スワローテイル」の試作機が、航空自衛隊のF15Jイーグルが、相次いで四国沖の高高度で爆発した。高度2万メートルに、何かがいる!!
……なんと、怪獣映画、もとい、怪獣小説だ。
怪獣小説というと、東雅夫によるアンソロジー『怪獣文学大全』(河出文庫)、山本弘『MM9』(創元SF文庫)ときて、すぐには次が思いつかない。初代ゴジラのストーリーを担当した香山滋の『ゴジラ、東京にあらわる』、『ゴジラとアンギラス』にしても、今でいうノベライズであり、小説としての評価が高いわけではない。
怪獣小説がジャンルとして興隆しない理由はいくつかあるだろうが、個人的にはこと「怪獣」を描くにあたって、映画館の闇と、左右に大きなスクリーンと、鳴り響く伊福部昭の音楽がない限り、ただのファンタジーかホラーになってしまうからではないかと思っている。
本書も、とびきり悲愴なプロローグに、航空自衛隊と怪獣の壮絶な空中戦を期待するが、それ以降は2輪のラブロマンスが花だし、対話による学習とコン・ゲームもどきが主戦場だし、そもそも登場する怪獣はガ行で始まり「ラ」や「ドン」で終わる名を持たず、ゴジラやギャオスより「未知との遭遇」の円盤によほど近い。
小説としての面白さと「怪獣小説」たることはやはり並び立たないのか。本書が恋愛小説──2組のうちとくに大人のほう──さらに一種の知的パズルとして抜群に面白いだけに、そのあたり高みに思いが残る。
もう1点。
大橋通り前の国道三十三号線では中央に路面電車の線路が走る道路の全車線が車で詰まり、方々で横転した車両が火の手を上げている。
逃げ惑う人々の上を大小の白い楕円が舞い飛び、雷や光線がその楕円から降り注ぐ。それに打たれて人が吹き飛び、建物が砕け、降り注ぐ破片がまた地上を逃げ惑う人々を襲う。
中継のカメラが急に方向を変えて走り出した。がくがくと揺れる画面が、もはやカメラマンが撮影を続行する状況にないことを知らせている。
上は本書の中で際立って「怪獣小説」している部分だが、この描写はデジャヴのようにこの春を経た我々を打つ。「怪獣」が日本人にとって何のメタファーであったかの証左の1つだろう。
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