『文豪怪談傑作選 吉屋信子集 生霊』(ちくま文庫)、『鬼火・底のぬけた柄杓』(講談社文芸文庫)
このブログでも『闇夜に怪を語れば-百物語ホラー傑作選』(角川ホラー文庫)、『日本怪奇小説傑作集(全3巻)』(創元推理文庫)など、何度か取り上げてきたホラープロパガンダニストにしてアンソロジスト 東雅夫、彼の最近の労作がちくま文庫の『文豪怪談傑作選』(現在15巻まで)なのだが、この集成もまた凄い。鴎外、露伴、鏡花から芥川、康成、太宰、三島といった「文豪」たちの作品群から、怪奇趣味・怪談趣向の作品を探し出し、それぞれ400ページ程度の1冊にまとめているのだが、とにかくその選択基準が「作品として優れているかどうか」、ではなく、ひたすらに「怪奇の色がついているかどうか」(だけ)なのである。そのため、決して作家の代表作とは言い難い奇妙な短編や、半端な随想、はては日記同然の実録心霊譚まで、玉石混交ハイブリッド、玉はもちろん石は石として実に楽しい読み物となっている(とはいえそこは「文豪」、いずれもずしんと読み応えあり。ただし時代が時代だけに、言葉遣いが古かったり漢詩混じりだったり、すらすら安易に読み通せない選集も少なくない)。
ところで、現在までの15巻中、とくに異彩を放つのが、3巻めの『吉屋信子集 生霊』ではないだろうか。
吉屋信子は大正期に少女小説家として活躍した作家であり、後年の歴史長編『徳川の夫人たち』にしてもフェミニストたる作者の思惑と異なるところで「大奥」ブームのきっかけとなった。他の「文豪」たちに比べると今ひとつ時代に迎えられた大衆作家の印象が強い。
……ところが、この『吉屋信子集 生霊』、これが予想外にいい。短編の一つひとつに裏山の崖の粘土をじっくりこねたような野太い粘り気があり、怪奇が顕れなくとも十分に読める。作品の後半に至って、登場人物が静かに追い詰められ、そこに視野が暗くぶれるように怪奇がかぶさってくる。モダンホラーの怖さとはテイストが異なるかもしれないが、より骨に響く恐ろしさであり、スプラッタな流血はなくとも胸から腹にかけてうねっと流れるものがある。
吉屋信子の作品としては、講談社文芸文庫から『鬼火・底のぬけた柄杓』という作品集も出ており、そちらも取り寄せて読んでみた。
表題作の「鬼火」は吉屋信子の短編の代表作の一つ。手本のような構成、文体で、これは粘土どころかもっと怖いもののカタマリなのだが、逆にいえば最後の見開きが直接的に怖すぎて、『吉屋信子集 生霊』収録作の微妙な凡庸さに安寧を覚えたりもする。
「底のぬけた柄杓」は海坊主の話かと思ったら、「せきをしてもひとり」で知られる俳人 尾崎放哉の生涯をさっくり切りまとめたもの。このほかいくつか収録されている俳人論はまったく門外漢でどう読んでいいのかとんとわからない。
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