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2011/01/07

『美しい恋の物語』(ちくま文学の森1)より、「なよたけ」(加藤道夫)

(本項およそ「なよたけ」の書評といえるようなシロモノではありません)

 大島弓子といえば、チビ猫が走り回る『綿の国星』が代表作ということになるのだろう。しかし、個人的には、ちょっとぼんやりしたところもある(人生の目標を決めかねた)若い主人公が、エキセントリックな登場人物と出会い、別れ、その経験が主人公の道を照らし出す、そんな作風が明瞭になったころの数年が狂おしくも愛おしい。「星にいく汽車」「鳥のように」「なごりの夏の」の1972年、「ミモザ館でつかまえて」「春休み」「野イバラ荘園」の1973年。まだ少女マンガの短編作家には単行本など期待できず、好みの作家の作品は古書店の雑誌束から探し出して切り取って保存するしかなかった時代のことだ。

 大島弓子の作品は、その予想外の展開曲線が胸を圧しつぶす切ない物語であると同時に、当時の若い読み手にとってすぐれた読書案内でもあった。与謝野晶子の「晩秋」(路は一すじ、並木道 赤い入日が斜に射し 点、点、点、点、朱の斑……)やゲーテの『ファウスト』からの引用は今もその場面ごと胸を高く鳴らす。

Photo_5  そんな中、別冊少女コミック1972年3月号に掲載された「3月になれば」で取り上げられていたのが、夭逝した加藤道夫の戯曲『なよたけ』だった。「なよたけ」は作中では登場人物の青年にとっての「マドンナ」の意である。

  竹よ竹
  なよたけは
  きみ……

 この1ページに、まだ読んだこともない「なよたけ」という戯曲をどれほど夢見たことだろう。

 しかし、「なよたけ」は戯曲ということもあって地方の書店店頭で見かけることもなく、筑摩の文学全集などに収録されてはいたようだが手にする機会を得ず(のちに青空文庫に公開されているのは知ったが、PCやケータイで読む気にはなれなかった)、このページのイメージのまま心の底に沈んで数十年(!)が過ぎた。

 『美しい恋の物語』は昨秋発行された文庫サイズの「ちくま文学の森」の1冊で、タイトルどおり恋愛小説を集めたアンソロジー。「なよたけ」はその巻末を飾る。「竹取物語」に想を得、幻想と現実を溶け合わせたような(やや暴走気味の)悲恋物語である。今読むと、全共闘的反体制風味やサイケデリックな味付けが感じられ(ただし「なよたけ」初演は1955年で、全共闘やサイケブームよりずっと以前のことなのだが)、つまりは「昭和」の味わいが濃い。
 こんなふうに直接的に恋慕を描く作品に無条件にこがれるには、もう少し若いうちに出会うべきだったかもしれない。年齢の問題ではなく、今、恋愛モノを必要としていない、ということがあるかもしれない。

 だが……大島弓子の1コマが導いた「なよたけ」が今も特別な作品であることに変わりはない。なよたけは手に入らなかった愛おしきものごとの影として、遠い昨日の竹薮に今も目をふせて黒髪を揺らす。

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