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2010/12/05

電子書籍について気になるいくつかのこと その六

 福満しげゆきの3つの作品を見てみると、同じ作者の私生活を描きつつ、それぞれが発表の場、つまり雑誌の空気に合わせて全く別の作品に仕上がっていることに驚く。

 『僕の小規模な失敗』は、「アックス」という(よくも悪しくも)「ガロ」の放任主義を受け継いだマイナー雑誌に掲載された作品で、マンガ家を志す若者の日々の迷妄と葛藤を小さなコマに丹念にペンで掘りつけていったような作風だ。ことに後半、のちの「妻」と知り合い、同棲、結婚にいたるいきさつを1ページにぎゅうぎゅう何十コマも描き詰めた執拗さ、切実さは、異様な心動と微妙な笑いを招く。

 それに比べれば出世作『僕の小規模な生活』は格段に落ち着いており、作者の「どうでしょう?」の問いかけにも余裕がある。ただしそこは編集長の島田英二郎氏がインタビューに応えて

雑誌は、「らしくあろう」とする志向と「新しくなろう」とする志向という、ふたつの相反するもので成立している。そのバランスが雑誌の個性だけど、「モーニング」は「新しくなろう」とする志向のほうが強くありたい。
いくらなんでも微妙すぎると恐る恐る載せるような作品が何本か入ってないと雑誌としてだめだと。

と胸を張る雑誌だけあって、可愛いばかりでない「妻」のヒステリックな激昂や他社を含む編集者たちとの諍いまで載せてしまい、尋常を半歩踏み外す味付け、さすが「モーニング」の面目躍如といえるだろう。

 場の空気にぴたり合っているという点では、双葉社「漫画アクション」掲載の『うちの妻ってどうでしょう?』も遜色ない。ここに至ってこの夫婦の生活、より正確にいえば売れないマンガ家の生活を描くという行為そのものの発する異様な気配は失われ、双葉社らしいコケティッシュでもっちりした空気に変わっている。「妻」はもはや当節流行の「不思議ちゃん」でしかない。そもそも『うちの妻ってどうでしょう?』という編集者のつけたと思われるタイトルが、他の2作とは世界観が違うのだと宣言している。

 これが、これらが「編集者」の仕事である。

 電子書籍が、作者本人によって簡単に作成でき、配布できるようになる環境下では、編集者はこういった成果を残しづらいことになるだろう。
 放任することによって特異なキャラクターを世に送り出し、それを素材に雑誌のカラーを作者に強要することがうまく効果を出し合って2つのヒット作が生まれた。この成果は、一方的な押し付け(これを権威と呼ぶことも、傲慢と呼ぶことも可能だろう)がまったくないところでは生まれ得なかったのではないか、ということなのである。

 電子書籍、いや、今後のネットの世界では、評価は読者が直接下す。これはとてもいいことだ。だが、何事につけても、「いいこと」には副作用がある。マーケティングが発達した時代には、自動車のデザインがメーカー、国を問わず似たようなものばかりになってしまうように、「衆」の声は「奇」の角を削り取る。
 作者が編集者と対峙し、作品の没、あるいは手直しを強制される場では、実は作者は全否定されているわけではない。ネットの世界で編集者が編集者として生活できなくなってくる時代、作者は「衆」の声と自分自身で対峙していかなくてはならない。それは、なかなかにやっかいなことだ。

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