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2010/11/28

福満しげゆきについて気になるいくつかのこと 『僕の小規模な失敗』、『僕の小規模な生活』(現在3巻まで)、『うちの妻ってどうでしょう?』(現在3巻まで)

Photo  福満しげゆきのメジャーブレークに火がともったのは、2007年の暮れに講談社から『僕の小規模な生活』の単行本が出たあたりからだったかと思う。翌年の秋に第2巻が出たころにはささやかながらちょっとしたブームとなっており、ジュンク堂の地下の平台に専用コーナーが設けられ、過去の単行本まで取り揃えられていた(池袋までそれを求めに行ったのでよく覚えているのです)。
 最近は文庫の表紙やヴィレッジヴァンガードのレジ袋まで請け負って、しっかり売れっ子の一員である。小規模だけど。

 とはいえ、福満しげゆきの作品の魅力を説明するのは、ちょっと難しい。
 青林工藝舎から発行されていた、初期の、いかにもガロ風アヴァンギャルドな若描きはさておき、現在も連載中の『僕の小規模な生活』(モーニング)、『うちの妻ってどうでしょう?』(漫画アクション)では、マンガ家である福満自身とその「妻」の生活が描かれる設定においてまったく同様である。ちなみに青林工藝舎の『僕の小規模な失敗』は作者が高校生活に挫折し、それ以来何をやってもうまくいかない中、マンガ家になることを選び、何度も諦め、やがてのちの「妻」と出会って付き合い、何度も揉め、結婚し、マンガに(何度目かの)再チャレンジするまでの物語であり、現在の福満作品の前史となっている。つまり、福満しげゆきはもう何年も、「妻」と暮らすマンガ家の私生活のみをこつこつ描き続けている、ということになる。

Photo_2  この、丸顔に細い目、もっちり太い脚の「妻」が独特で、機嫌をそこねると泣き叫び、作者を殴り、蹴り、「クソブタ!」と罵倒する。かと思えば家計を支え、作者のパソコンを操作してホームページを作成してくれるしっかり者でもある。「よかよ」「せんよ」「おいの それ…」と味のある九州弁を駆使する点でも魅力的だ。福満ならずとも「妻~~っ!! 妻~~っ!!」と布団の上をごろごろする読者が少なくないに違いない(かな?)。
 この「妻」人気なくして福満しげゆきのブレークはなかっただろう。しかし、それだけではいろいろ説明がつかない。なにしろ、作品自体は、内向的で嫌味なマンガ家がダメダメな人生をうだうだ言い訳で覆い尽くす愚痴マンガなのだ。

 誤解を懼れず(誤解を愉しみに)言うなら、福満作品の面白さは、各コマに充満する論理性ではないだろうか。
 彼の作品は、愚痴っぽく見えて、いや、実際に彼自身の言動は失敗と言い訳にまみれているのだが、それがマンガのコマに反映されたとき、描かれ方がいちいち読者への問いかけとなっているのである。漫画アクションの編集者が連載タイトルを『うちの妻ってどうでしょう?』としたのは慧眼ではないかと思う。福満のコマには、随所に「どうでしょう?」が用意されているのだ。

  編集者からせっかく電話がかかったのに
  よその出版社から依頼を受けた話をしてしまった
    ⇒ どうでしょう
  「妻」は椅子に座るとき足の親指をうち側にまるめている
    ⇒ どうですか
  バイト先の110円ショップにスラーっとした女子大生が
    ⇒ どうでしょう
  隣の部屋の新聞受けのすきまから小バエが!
  なのに「妻」はとりあってくれない
    ⇒ どうですか

Photo_4  どうでしょう、は作者の意識に常にとぐろを巻く疑問符でもある。作者は内向的だが、内向的な者は往々にして他人に厳しい。「まあそんなものでしょう」などという曖昧な回答は許されない。作者は次のコマ、もしくはしばらくして「ダメだ…」「よし」と自分なりの回答を提示することもあれば、さらにそれを覆すこともある。問題だけ投げてコマを打ち切ることもある。いずれにせよ、読み手は作品と相対する間中、明確な回答を求め続けられるのだ。

  あんな私生活もエロマンガみたいな人に……
  どんなエロマンガを描けばよろこんでもらえるんだ……
    ⇒ どうでしょう
  一度もライブをやったことないのに
  武道館でライブをやるのが夢だという友人
    ⇒ どうですか
  頭に比べて小さな帽子に
  小学生のように紐を縫いつけた「妻」
    ⇒ いかがでしょう

 問いをちぎっては投げちぎっては投げするような数コマ(四コマとは限らない)マンガから、「どうでしょう」をつないで(つまりなんらかの事態に作者が煩悶に葛藤を重ねて)展開する十数ページのストーリーマンガまで、読み手は大小の命題を提示され続け、頭の中で「それはあり、だろ」「ないない」「うーん、正しい。いやしかし?」と答えを追い続ける。頭の中のモーターがブーンとうなり続けるような塩梅だ。

 福満しげゆきという人物は、不器用ではあるかもしれないが、常に論理的思索、の人なのではないか。福満作品の多くが、ぐちゃぐちゃ陰気な私小説的空間を描きながら、読後に妙に明快で工学的な印象が残るのは、そういった構造によるのではないか。
 ⇒ どうでしょう。

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