プロの視界 『王狩』(1巻) 青木幸子 / 講談社イブニングKC、『茶柱倶楽部』(1巻) 青木幸子 / 芳文社コミックス
『ZOOKEEPER』の青木幸子の新刊。講談社、芳文社という出版社の枠を超えて昨日同時発売、合同フェア。よい試みだと思う。知恵を絞れ。
青木幸子の作品は、たとえばこんな感じだ。
カーブかフォークか、いずれにせよ変化球がくる、とバットを構えて待っている。するとそこに、ボウリングのボールがゴウンとうなりながら飛んでくる。
設定はいずれもいかにもマンガ的。尋常ならざる異能の女性(年齢はさまざま)が何かのプロを目指す。読み手は当然主人公がその異能を生かしてその世界で活躍していくものと思う。ところが、彼女は目の三方を白くして言うのだ。
「…………………… そんな 甘くない」
では、どうするか。煩悶するのである。
「そういう努力なんてプロ棋士ならあたり前
なぜ 結果に圧倒的な差がつくの」
そして、ときどき、
「ほんの一瞬だけど
いきなりどこまでも見えるみたいな時がある」
以上、引用は6歳の夏から将棋の世界に踏み込んで今は奨励会に属する『王狩』の久世 杏のセリフからだが、動物園を舞台にした『ZOOKEEPER』の新米飼育員 楠野香也も、『茶柱倶楽部』で日本茶の美味しさを広めるために移動茶店で全国をまわる伊井田 鈴も、人には見えないものが見える(思い出せる、味分けられる)といった異能だけで何かをなしとげられるわけではない。それは資質の一部にすぎない。
得られたわずかな情報をもとに、主人公がいかに前に進むか、人を動かすか、それがこれら骨太な作品群のテーマとなっている。彼女たちの歩みはゆっくりではあるものの、強い。
……などと肩に力を入れなくとも、青木作品には(主人公含め)それぞれの道を究めるヘンな人物がいっぱい出てきて、それだけでも楽しい。
これらの作品は、主人公との出会いを触媒に、誰かが何かをなしとげようとする物語でもあるのだ。
(今回は『王狩』の杏ばかり引用したが、『茶柱倶楽部』の“豪運”鈴の表情やしゃべり方も、涼やかでとても好もしい。とはいえ、日本茶を煎れてお金をいただくという移動茶店の運営は、もし実際に志せばそれはさぞかし大変なことだろう。なお、この作品中に登場する各地の名茶(注文先まで載っている)、とくににグラスで差し出されるお茶は、いずれも実に美味しそうで喉が鳴る。)
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