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2010年9月の4件の記事

2010/09/24

そこまでして君は 『テレビ局の裏側』 中川勇樹 / 新潮新書

Photo 【この殺人事件、昨日の数字パッとしないし展開ないから、続報はもうやめよう。】

 著者は現役のフリーディレクター。

 「CM↓ 番組制作費↓ 視聴率↓ 崩壊する巨大メディアの内幕」と、なかなかに仰々しい煽りが帯に踊っているが、要するにいまや民放の地上波は、本屋のレジわきに積まれたお持ち帰り自由の通販カタログ、あれに近いものなんですよ、と、そういうことだ。
 本書のどこにそんなことが書かれているのか!とミケンにシワ寄せて詰め寄られても困るが、まあどのページを開いても、だいたいそういうことになっているのである。

 本書では情報番組の捏造事件だとか(あるある)、決定的瞬間はつくりものであるとか(はいはい)、あれやこれやの視聴率取得のためのテクニックとかスポンサーへの配慮とか(もう、ねえ)、テレビを苦境に追い詰めた様々な制約が現場の視点から取り上げられている。
 だが、実のところ、テレビ番組の何が問題かといえば、視聴率を最重視していながら視聴者を、スポンサーの意向を最優先しておきながらCMを、それぞれ軽んじていることではないか。そのくせ番組の品質や報道の自由を謳うというのは、抜本的に欺瞞である。大切なものを一生懸命考え、こしらえる「仕事」の構図ではない。
(そう考えつつ見ると、局の思惑と番組の目的が合致したテレビショッピング番組の思い切りのよさは実にわかりやすい。ただ、そういうものをこしらえるためにあなたはテレビマンになったのですか?とつぶらな瞳で聞いてみたい欲求にもかられるが)

 そしてもう1つ。テレビ番組では、ほんの数分の放送にも大量の設備や機材、多数のスタッフの稼働が必要である。つまり、一人の天才の登場によって状況が画期的に覆る……そういうことがまず期待できない。これも構造的な問題だ。

 本書の「おわりに」の章で、著者は「あえて」と断ったうえで「テレビ番組制作は面白くやりがいのある仕事だ」と主張する。しかし、残念なことに、その著者の語る「面白い」「ベストのもの」が、所詮、視聴率の取れる番組、といった程度にしか読めない。これが現場の限界なのかという気もする。
 困ったことに、広告費が激減しているとはいえ、テレビCMの訴求力はいまだべらぼうで、個々の図体の小さな産業(たとえばレコード業界)のように古い販売形態を次々と脱ぎ捨てるようなマネもできそうにない。
 これからしばらく、テレビ局は、自身が製作するコンテンツより、本体の行く末のほうがよほど見ものとなりそうだ。本書のどこかにそう書いているわけではないが、そういうことなのである。

2010/09/21

そうまでして君は 『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』 山根一眞 / マガジンハウス

Photo 【小さな光の点は明るさを増しながら北西の低い位置から南東の高い方向へ進み、私たちが見上げる真正面の夜空で大爆発を起こしたように思えた】

 2010年6月に7年ぶりの帰還を果たし、日本中、いや世界中の技術者、宇宙ファンを沸かせた小惑星探査機「はやぶさ」。その打ち上げから帰還までの軌跡をいち早くまとめた単行本(えらい)。

 山根一眞のノンフィクションの特徴は、良くも悪しくもさらっとした日常的語り口調だ。これはモノづくりの現場やプロジェクトを紹介するにあたり、必要以上に浪花節、お涙頂戴に流さないメリットがある一方、重みに欠けるのも否定できない。
 本書のインタビュー文でも
「何かあったの?」
「なぜ点火しないんだろう?」

などの「ため口」にはつい「ちょっと待て、それはないだろ」と小言がこぼれそうになる。
 しかし、いくら文体がライトでも、制御不能、通信不能といった困難な状況を関係者各人がアイデアをふりしぼって少しずつ突破していく「はやぶさ」の旅程はそれだけで読む者を圧倒する。探査機を必要以上に擬人化するのもどうかとは思うが、カプセルを分離して使命を全うし、燃え尽きる直前、姿勢を反転させて送り届けてきたノイジーな地球の画像、そしてウーメラ砂漠の夜空を明るく焦がして燃え尽きたその姿、これらは何度顧みても目からぶしゃぶしゃ汗がふき出してしまう。「はやぶさ」、おかえり。「はやぶさ」、ありがとう。

 その行程約60億キロメートル。

 NHKはその帰還の瞬間を生中継しようとせず、きちんとしたドキュメンタリーを提供する気配もない(相撲中継ほどに悩んだ気配すらない)。文部省も、こうした本こそ教科書に据えればよいのだ。

2010/09/14

さもしき悪意、愚鈍な善意 『新・御宿かわせみ』 平岩弓枝 / 文春文庫

Photo 【その昔の、東吾をみるようじゃな】 ←読み手にはぜんぜんそう見えません

 前作から6年の月日が経ち、時代は一気に明治。
 その間、東吾は行方不明となり、宗太郎と花世を除く麻生の一族は惨殺され、事件を追った源三郎も何者かによって非業の死をとげている。

 これは本当に同じ作者による『御宿かわせみ』の続編なのだろうか。

 思うに……。
 『御宿かわせみ』とは、江戸の古地図の上に春秋の風俗、習わしを蒔きつけ、その上に身分制度や因襲にこだわらない善良かつ聡明な人々を配した、心なごむお伽噺だった(過去形なのが悲しい)。新シリーズでは桃源郷はもろくも瓦解し、粘土顔の男女と身勝手な若者が残るばかりだ。
 しばらく引っ張るかという予測に反し、麻生家を襲撃し、源三郎を殺害した下手人はこの1冊の中であっさり判明してしまう。しかし、その動機はとことん浅ましく、身も蓋もない。かつて、本シリーズにおける陰惨な事件のいくつかが、実はやむにやまれぬ人情沙汰の果てだったことが今となっては懐かしい。

 数十年にわたって編み通された名作を何もこう一気に貶めなくても……とまで言っては言いすぎか。いや、それにしたってこのぼんくら麻太郎におたわけ花世はないだろう。

 平岩先生。
 病気療養中に版社が無断で数冊代筆に書かせたことにするなら今のうちです。今なら、まだ間に合う。

2010/09/03

ヒーロー屈す 「週刊コミックバンチ」休刊

Photo  コアミックス編集、新潮社発行の「週刊コミックバンチ」が先週8月27日発売の第39号をもって休刊にいたった。コアミックス、新潮社よりそれぞれ月刊誌をリニューアル創刊と公表されてはいるものの、敗残処理の感は否めない。

 週刊コミックバンチは、2001年5月、原哲夫、北条司、次原隆二、こせきこうじら集英社「少年ジャンプ」の一時代を築いたマンガ家たちが作品を提供、ジャンプ全盛期のヒーローマンガの続編を売り物として(最近のマンガ界にしては)華々しくスタートした。その後、アジア志向の強い時期、『北斗の拳』の外伝連発の時期等を経て、最近は戦国時代や幕末のヒーローを描いた時代モノ、ゲームの架空世界を舞台にした作品などを多数掲載。
 様々な方向に掘削を重ねるも、大鉱脈を引き当てる前に遺産を使い果たした──といったところか。

 無論、その間面白い作品がなかったわけではない。
 本ブログでも取り上げた『コンシェルジュ』(藤栄道彦)、『女王様がいっぱい』(イワシタシゲユキ)、『オーレ!』(能田達規)。傍聴ブームを起こした北尾トロ原作『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』(松橋犬輔)や漢字表記の擬音が楽しい『悪忍 -加藤段蔵無頼伝-』(今泉伸二)も単行本をそろえておきたい。地方選挙を扱って一般紙でも話題になった『(当)タネダミキオでございます。』(塚脇永久)、大地震をリアルに描いた『彼女を守る51の方法』(古屋兎丸)もいい。
 添付画像は金森重樹監修『タカネの花』(新久千映)。不動産投資を素材に、たった2巻だが思い切りのよいペンタッチと展開がなかなか読ませる。

 惜しむらくは4コママンガ『ママめろん』(みたにひつじ)。長年にわたり愛読していたのだが……単行本が出なかった。痛恨。

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