正面から描く ……何を? 『ラッキーマイン』(全4巻) 鈴木マサカズ / 講談社モーニングKC
【手品を楽しめるおまえらは わたしの話を信じるべきだ!!】
すっかり失念していた。こういう作品を取り上げないで、どうする。
タイトルの「ラッキーマイン」とは、登場人物によれば「直訳すると幸運な鉱山」。
つまり、幸運が絶えず湧き出て、周囲の人間を潤す者のことだ。しかし、当人が幸福とは限らないし、その幸運はいつか尽き果てる。
この物語は、そんな「ラッキーマイン」の存在を信じ、憑かれたようにギャンブル(ロシアンルーレット)を繰り返す者と、それをとめようとする者たちとの対立を描く。
いや、ことはそうシンプルではない。ラッキーマインを信じない者は、そのくせ自ら信じるラッキーマインと組まないと勝負を挑めない。……あらゆる諸相が相対的、かつ流動的で、『カイジ』などのギャンブル漫画によくある、その場限りとはいえ有効な擬似論理などこの作品には期待できない。勝負の決め手はほとんど「流れ」と「運」だけなのだ。『哭きの竜』も真っ青である。
およそ美麗とは言い難いペンタッチ、繰り返されるスプラッタシーン、世辞にも上品ではない登場人物たち。名言、妄言が連発され、生理的なインパクトは強いが、これでは……と首を傾げて読み続けるうち、最後から2話目で読み手は突如爆裂的に圧倒される。なぎ倒される。
実はその回も含め、何度読んでもストーリーとしてのツジツマはあっていないように思われる。理屈だけ追えば明らかに破綻している。10日前のナポリタンのようだ。だが。
そんなことを言い出せば、そもそも継続的にロシアンルーレットをするというゲームプラン自体無茶なのだ。その無理、無茶の中で、人が死ねば死ぬほど、膨張していくもの。この愚かしさと表裏一体の暴力的な説得力が、マンガ原初の魅力でなくて何だというのだ。
もう一つ。『ラッキーマイン』は脇役から主人公まで、あきれるほど正面のアップの多い作品でもある。
そのことだけでも、多分、意味がある。
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