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2010年4月の2件の記事

2010/04/27

キャベツはどうした? 『空想お料理読本』 ケンタロウ×柳田理科雄 / メディアファクトリー 空想科学文庫17

Photo 【太る、太らないの前に、小池さんが栄養失調で死んでしまわないかが心配です】

 あの「空想科学読本」シリーズの柳田理科雄(本名です)氏と料理家のケンタロウ氏が、人気アニメの料理シーンをビデオ再生しつつ語り合い、料理しては食べてしまう、という、“ああできるなら本で読むより、気心の知れた同世代同士、夜を徹して実行したかった!”楽しい企画本である。

 「小池さんのラーメン、ラピュタのパン、チビ太のおでん ほか全15品!」、これは帯の惹句、残る12品目をここに書いてしまうのは未読の方の興を削ぐというものだろう。1つだけ、個人的にはルパン三世『カリオストロの城』のミートボールスパゲッティ(次元とルパンがレストランでスプーンとフォークで奪い合う、あれです)がツボだった。食べたい食べたい食べたいぞ。

 ……コホン、いや、書評としてはこれ以上書くこともない。読むべし、こさえてみるべし、食べるべし。中には料理のしようのないもの、食べようのないものもあるにはあるが、そこはアニメ。むしろアニメ、マンガでありながら、きちんと食べられる料理、リアルに描かれている料理が多いことに驚くべきか。

 さて、この本にならって、アニメやマンガに登場する料理、食事シーンを少し考えてみた。

 デスラー総統のワインセットはのちに実際に発売されたなあ、とか、トムとジェリーの「台所戦争」のご馳走にはアメリカの財力にただもう圧倒されたな、とか、料理ではないけれど『巨人の星』で伴宙太がパンと一緒に食べた九竜虫(小さな甲虫を生きたままパンと食す。強精剤としての効果があると言われ、当時全国的なブームだった)、など、いろいろあるが、ここはマイナーとのお叱り覚悟で花郁悠紀子の短篇「姫君のころには」(秋田書店プリンセスコミックス『踊って死神さん』収録)の食事シーンを取り上げたい。

 それは優等生でカタブツの主人公アルフォンスのところに友人たちが押しかけて男女4人で食事をする、それだけのシーンなのだが、(幼児的なばかりに軽佻浮薄な)若い男の友人が、両手に料理の大皿(鉄板?)とフランスパンを抱え、左ヒジでテーブルの上のノート類を「ザカッ」と突き落とす。本当に他愛ない1コマなのに、初めて読んだ日からこの音がずっと心に残っている。両手に料理、左ヒジで「ザカッ」。ここには仲間との晩餐への無垢な信頼がある。今夜の食事、明日の食事、明後日の食事への素朴な信頼がある。そんな思いがした。

 まさかその年の暮れには作者花郁悠紀子が26歳の若さで亡くなるだなんて思ってもみなかったのだ。

2010/04/05

絶版しない豪奢 『決闘・妻』 チェーホフ 作、神西 清 訳 / 岩波文庫

Photo 【君、氣は確かだらうね。】

 チェーホフを追ううちに、たまたま入手した1冊。
 『決闘・妻』のタイトルに見覚えがなかったため、新刊か改訂版かと手に取り、奥付を見て驚いた……否、正直「呆れた」。

 なにしろ、
   1936年6月15日 第1刷発行
   2005年2月22日 第15刷発行

である。つまり、第二次世界大戦前の昭和11年に初版を発行して以来、改訂も行わず、70年めにして15刷発行。ちなみに昭和11年といえば、二・二六事件の年だ。

 あまり知られていないことだが、岩波文庫には原則的に「絶版」がない。つまり、品切れになって何年、何十年経とうが、岩波のラインナップとしては現役、と考えるのだそうだ。そして、リクエストが多そうに見えても復刊しないものはしない、かと思えば誰のためにと思われるようなマイナー、ローカルなタイトルをひょいと再版してみたりする。

 本書もそういった再版本の1冊だったのだろう。
 表紙まわりや奥付、巻末の在庫目録はさすがに新しいが、本文や解説はすべて旧字、旧仮名遣い。それが活版印刷特有、それも紙型を通したのかがたぴし綻んだ小さな文字で並んでいる。
 「客と話しているあいだじゅう」は「客と話してゐるあひだぢう」、「恋愛」は「戀愛」、「わきまえる」は「辨へる」。「サガレンの旅」とあるからどこのことかと思えばサハリンのことだった。
 漱石や芥川を読むときは旧仮名のほうが目がなじむ。本書は未読だが、神西訳でもあり、楽しみにしている。

 それにしても、この平成の世に、チェーホフの、それも「決闘」に「妻」という、決してメジャーとは言いがたいカップリング。一体、何をきっかけに、何冊印刷されたのだろう。
 たとえば、どこかの大学の先生が、授業で使うために必要な部数だけ再版を依頼した? うーん。烏丸がこの1冊を買い求めてしまったために、入手し損ない、単位を落とし、留年が決まり、下宿屋の屋根裏の一室でサモワールのお茶を手に途方に暮れる露文学生РРР君。すまぬ。

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