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2009/08/03

組織をはぐくむ夢 『オーレ!』(全5巻) 能田達規 / 新潮社BUNCH COMICS

228 【あとひとつ 中島さんから伝言がある】

 先に紹介した『GIANT KILLING』の売りが「サッカー漫画では未知の領域である監督をテーマに描く」なら、こちら『オーレ!』はチームの運営・経営によりフォーカスした、いわば社長育成をテーマにしたサッカー漫画である。

 主人公の青年中島順治は、サッカー選手でも監督でもない、サッカーに詳しいとさえいえない一地方公務員。
 ひょんなことから弱小プロサッカークラブ「上総オーレ」に出向を命ぜられた中島は、通訳兼アドバイザーという中途半端な立場から、2部リーグ下位で観客動員に苦しむクラブの実態を目の当たりにする。
 彼は当初は公務員ならではの理想論をふりかざし、周囲の反発を買うが、やがてチームの強化と地域の復興を生涯の目標とみなし、さまざまな難題に挑んでいく。低迷しているとはいえトップリーグに所属する『GIANT KILLING』のETUに比べても、上総オーレの目先の敵はより明確に「貧乏」と「人手不足」なのだ。
(サッカーチームの経営といえばセガの『プロサッカークラブをつくろう!』(通称「サカつく」)だが、「サカつく」ではプレイヤーは最初からチームのオーナーとしてある程度の権限を握っている。一方、『オーレ!』の中島は、上総オーレ出向時点ではボランティアスタッフからさえ軽んじられる不勉強な傍観者に過ぎない。だからこそ、3巻、プロリーグ残留のかかった重要な試合のさなか、選手たちへの伝令が口にする「あとひとつ 中島さんから伝言がある」というセリフは、中島のチーム内でのポジションの高まりを描いて痛快なのだ。)

 『オーレ!』の1巻から4巻までは、弱小チームが2部リーグからの降格危機をいかに乗り切るかというオーソドックスなスポーツマンガの体裁をとっている。それと並行して、チーム運営にかかるコスト、選手との契約、自治体との関係、地元へのプロモーション、細かいところでは試合後のゴミ処理など、チーム運営にかかわる大小のテーマが次々取り上げられていて興味深い。このあたり、主人公がサッカー経営に詳しくないことが描写にうまく活用されている。最終の5巻にいたるとサッカーの試合はほとんど描かれず、ドイツに赴き市民スポーツとして根付いたブンデスリーガのありさまを直接体験した中島が、上総市と上総オーレの未来のために身を投ずる覚悟を決めるにいたる過程が描かれるばかりだ。

 物語は後日譚として、上総オーレの社長となり、チームをトップリーグの強豪に育て上げた中島が、なおも世界のトップへの道を模索するシーンで終わる。もちろん、覚悟だけで経営ができるわけはなく、上総オーレの経営が改善されるにいたったさまざまな努力は結局描かれていない。そのため、経営をテーマとする作品としての『オーレ!』は荒削り、未完成と言わざるを得ない。しかし、その隙間を埋めて読もうとする者には非常に有意義なテキストの1つとなるだろう。

 たとえば、中島が上総オーレのスポンサーになってもらおうと日参する海運富豪の大河原老人のセリフ、

  「人は『故郷のために……』などという理念に金を出したりはしない
   その理念を体現した人間のために金を出すのだ」

これなど、読み手によっていかようにも読み取れそうだ。
 よくできたスポーツマンガの常で、『オーレ!』にはほかにもチャッチーなセリフがたくさん登場する。経営、運営の問題に直面している方には、心に沁みる言葉も少なくないのではないか。推奨したい。

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