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2009/05/19

愚挙 『マタンゴ 最後の逆襲』 吉村達也 / 角川ホラー文庫

759  【マタンゴに感染した人間の生命は、もはや人間のルールには従わない。】

 書いてはいけない本がある。東宝の了解を得られたとしても、作者に『マタンゴ』へのリスペクトがあったとしても、いやリスペクトがあるならあったほど、書かれるべきではなかった。

 マタンゴは、恐ろしい。

 東宝映画『マタンゴ』。
 封切は1963年、同じ東宝の怪獣映画『キングコング対ゴジラ』の翌年、『モスラ対ゴジラ』の前年で、巨大キノコ怪獣が暴れまわる映画と勘違いした(そう勘違いしてしかたない予告ポスターだったのだ)日本中の小学生が封切館におびき寄せられ、あのラストシーンにキャッと悲鳴を上げたまましばらく夜一人でトイレに行けなくなった。

 ストーリーはシンプルだ。六本木のナイトクラブに遊ぶ金持ちや学者、作家たち男女7人がヨット遊びに出、嵐に遭って漂流する。流れ着いたカビだらけの無人島で、彼らは食料と女をめぐり、エゴと欲望をむき出しにして争う。やがて彼らの背後に現れる怪しい影。その島のキノコを食べると、人はキノコ様の怪人になってしまうのだ。しかし、極限の飢餓の中、若者たちは一人、また一人とキノコに手を出していく。

 40年以上昔の映像だけに、CGを多用した昨今の映像に比べるとクリアさでは劣る。しかし、打ち捨てられた難破船の船室の湿っぽさ、洞窟のようなキノコの森の壮絶な光景は、ヘビやクモやナメクジに感じられるあの「触ってはいけない」、「触ったら何かがうつりそう」な不潔感、気色悪さに満ちている。

 怪人マタンゴは決して強大な脅威というわけではない。火や強い光に怯え、打ちすえれば腕がもげ、銃で撃てばあっさり倒れる。怪人マタンゴはただ群れて立ち、見つめ、誘うだけなのだ。キノコのように。
 『マタンゴ』が当時の他の怪奇映画と一線を画したのは、そこに描かれた恐怖の素因が、自分自身の肉体と精神が醜い怪物と化すことにあった。巨大怪獣が夜の都市を襲う恐怖、吸血怪人が闇から現れる恐怖などとは次元が違う。怪人マタンゴがドアの向こうに立つのもそれはそれで怖いが、それ以上に、追い詰められた自分が、清廉な恋人が、逃れようもなくそのグロテスクな怪人に変じてしまう、それこそが恐ろしいのである。

 ……などということは、DVDか何かでひとたび『マタンゴ』を見ていただければわかることだ(映像の雰囲気が知りたいならYouTubeで映画の予告篇を探してみるといいだろう)。お子様ランチ化した平成ゴジラなどと異なり、一篇の映画作品として、大人の鑑賞に堪える内容、品質であることは保証しておきたい。

 さて、角川ホラー文庫『マタンゴ 最後の逆襲』は、ミステリ、ホラー作家の吉村達也が東宝の了解を得て発表した、映画『マタンゴ』の後日譚である。

 「富士山麓の樹海の奥深く、大型ヨットが浮かび、亡霊がさまよっている──その「都市伝説」を確かめようと訪れた五人の男子学生と二人の女子高生を包み込む極彩色の胞子の霧。そして現れたキノコの怪物!」というオープニングの設定はまだしも、意思を持ったかごとき「極彩色の胞子の霧」があまりに超常的で、読み始めてすぐに不安になる。悪い予感はあたり、マタンゴの発生に放射能実験云々の理屈をつけてみたり(映画の予告篇で安易に語られた「放射能が生んだ」という設定は、映画本編で削られている。卓見だろう)、国際バイオテロとからませたり、あげくに巨大マタンゴに変身前の人の意識を持たせるにいたってはもはや『マタンゴ』への冒涜である。

 水野久美が嫣然とキノコを口にするシーン──色っぽくむき出しになった足がすでに一部ケロイド状に変色しているのが美しくグロい──がなぜ怖いか。「せーんせーえ、せんせーえ」と清楚な笑顔のまま久保明を招く八代美紀がなぜ怖いか。そこにいるのが、まったく同じ顔をしていながら、すでに自分たちの知っている人間ではないからではないか。

 吉村達也の『マタンゴ 最後の逆襲』に登場するマタンゴは、ただキノコに似た、巨大でほこりっぽい着ぐるみにすぎない。平成キングギドラにも見受けられたやたら複雑な設定、大掛かりな理由付けをかぶせて今ふうの(ハリウッド映画を少しチープにしたような)アクションシーンへとなだれ込み、「マタンゴに感染」「村井マタンゴ」「米軍のマタンゴ研究チーム」……悪い冗談のようだ。
 これはもはや、あの底なしに美しく、果てなしに恐ろしいマタンゴの胞子を受けた嫡子ではない。小麦粉か何かだ。

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コメント

関係者?
どう庇っても駄作はダサクwww

まあそう思う人もいるんですね。それはいい。
けどね、作品を作る人の目線で考えたことがなきゃね…
上回る、って考えそのものがおかしい。優劣つけたがるのはこういうひとたの悪い癖ですね。

げろざえもんさん、こんばんは。
当節、なにかと昔の作品のリメイクやマンガからの実写化がなされますが、旧作、原作を上回るものは50に1つもないように思えます。描くべきものをもたないなら、黙るべきではないか、いや僕にそう指摘する権利があるかと言われればそれまでですが。

全く同感です。

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