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2009/02/22

追想のアンドレ・ブルトン その三

673 「アンドレ・ブルトン集成」は完結に至りませんでしたが、収録を予定された作品のうち、『狂気の愛』は思潮社から(のちに『カラマーゾフの兄弟』をベストセラーに仕立て上げた光文社古典新訳文庫にも収録)、『秘法十七』は晶文社、のちに人文書院から、『シュルレアリスムと絵画』は人文書院から、『魔術的芸術』は河出書房新社から(普及版と完全版あり。完全版は29,400円…)、『黒いユーモア選集』は国文社から(のちに河出文庫に収録)、という具合にそれぞれ発行され、ブルトンの著作のかなりの部分が翻訳本として読むことができるようになりました。
もっとも、肝心の「アンドレ・ブルトン集成」の既刊6巻は今や絶版で、いずれにせよブルトンの著作を日本語でそろえるのはやはり非常に困難な作業となっています。

さて、アンドレ・ブルトンの作品ですが、これがいずれも難しい。アンドレ・ブルトン本人が「くねくねと蛇行する、頭がへんになりそうな文章」(シュルレアリスム宣言)と評したとおり、長い針金をくしゃくしゃにからませたような、ごく当たり前のことを書くのにもわざとややこしくしているかのような表記が並びます。

パリで出会ったエキセントリックな女性をシュルレアリスムの顕在化とみなして自らの情動をさらけ出す『ナジャ』など実はまだわかりやすいほう。続く『狂気の愛』にいたっては光文社古典新訳文庫の続刊案内に「過去の邦訳では通読不可能と言われてきた」と紹介されるほどです。『狂気の愛』は訳者によれば
  表記が波乱に富み、破綻に満ち、論理的な文章のはずが、いつの間にか燦爛するイマージュの詩的言語にすり替わっていたりする
書物なのだそうです。「通読不可能」で「破綻に満ち」。困ってしまいますね。

アンドレ・ブルトンの著作から有名どころをいくつか抜き出してみましょう。

  生きること、生きるのをやめることは、想像のなかの解決だ。生はべつのところにある。(シュルレアリスム宣言)
  美とは痙攣的なものだろう、さもなくば存在しないだろう。(ナジャ)
  愛のどんな敵も、愛がみずから讃える炉で溶解する。(狂気の愛)
  眼は野生の状態で存在する。(シュルレアリスムと絵画)
  この自由、そのために火そのものが人間と化したのだ。(サド侯爵について)

それぞれ何を表しているのか、などと問われても困ります。アンドレ・ブルトンを(日本語で)読むということは、とにかくこういうことなのです。

こうしたアンドレ・ブルトンの作品を七転八倒して読み切ったところで振り返ると、実は、案外他愛ない発見や、無理やりなこじつけの山? と思われることもないわけではありません。
通常のセンスをもって冷静にアンドレ・ブルトンの主張、作品を評価すると、少なくともさまざまな価値観がさらに変遷、崩壊した現代から見て、低い評価をする方がいても、それは仕方ないのかもしれません。

しかしそれでも、アンドレ・ブルトンは魅力的です。
批評の目と時代が洗っても、流しても、それでも胸踊り、ときめくものが水の底にさりさりと残るのです。雲のようにむくむくと湧き上がるのです。
それは、彼が一見机上の「批評の人」「選択の人」に見えながら、実はあくまで創作という「行為の人」だったからではないかという気がします。彼は眺める人ではなく、最初から最後まで同じ角度で高みに至ろうとした人でした。
だから、彼の作品は、(あれほど読むにあたって難解、晦渋であるにもかかわらず)何か新しいものを書こうとする者に元気を与えるのです。

最後に。
初代ウルトラマンに登場する四次元怪獣ブルトンの名称はアンドレ・ブルトンに由来し、その存在、その攻撃が超常的だったのは多分に「シュルレアリスム」を意識したものだったそうです。ウルトラマンには三面怪人ダダという宇宙人も登場しました。粋な脚本家もいたものですね。

ブルトンについてはまたいつか。

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