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2006/12/25

暗愚と静謐と 『貴婦人Aの蘇生』 小川洋子 / 朝日文庫

711【儀式は行なわれなかった。】

 文学論をひねるために小川洋子を読んでいるわけではない。
 ののしり合いに近い言葉が飛び交うホットな職場から離れ,鋼と革の武装を解いて一人の時間の地底湖の波を鎮めたい,それだけなのだ。
 それなのに,ほんの200ページあまりの静かな小説の,ほとんど唯一のクライマックスシーンの数行を,この文庫の解説者はほとんど全文引用してしまう。それをとめられない編集者。
 そんな無神経さは,小川洋子を読みたい時間に最もそぐわない。

 剥製を集めて,最後には庭先で北極グマの剥製に首をつっこんで絶命した伯父。
 亡命ロシア人で,洋館にところ狭しと並ぶ剥製のことごとくに‘A’の文字の刺繍をほどこして日々をすごす老いた伯母。
 あらゆる建造物に入るために必ず扉のところで複雑な儀式を要する強迫性障害をわずらった青年。

 グロテスクでエキセントリックな登場人物たちは,しかし,バルテュスの絵の一枚のように動きをとどめ,外からながめた謎は,静かに謎の意味を喪ってたゆたう。

 風のない湖のように静まり返った水面は,やがて内からの力にゆっくりと細かい波動を寄せ,渦巻き,水しぶき,やがて解説者の魯鈍を忘れ。

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