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2006年11月の4件の記事

2006/11/27

新本格1/4+謀略アクション3/4 『霊柩車No.4』 松岡圭祐 / 角川文庫

No4【遺体は貨物だ,だから載せられる。きみは,まだ貨物じゃない】

 失礼,こちらは同じ角川でも「ホラー文庫」ではなかった。『姉飼』と並んで平積みだったのでつい勘違いしていたようだ。

 『催眠』,『千里眼』の松岡圭祐の新作,というか新シリーズである。
 主人公はリンカーンのショートリムジンタイプの霊柩車を駆るドライバー,伶座彰光,39歳。黒づくめの身だしなみ,ほっそり痩せているが物腰は油断なく,端正な鼻高い面影はどこか神秘的(御手洗とどこが違うんだ……)。
 数知れぬ遺体を運んできた彼の経験は,遺体を一見するだけでその死に様を読み取り,深い洞察をもって真実を看破する……。

 葬儀屋探偵という設定にはすでにいくつか前例があるが,本作は「霊柩車ドライバー」という職業に限定することで,独特のキャラクター,雰囲気を作り上げることに成功している。

 松岡圭祐という人は不思議な作家で,『催眠』ではサスペンス,アクション色を排した朴訥なまでに謎と解明を積み上げるような作風だったのが,次作『千里眼』ではジェームス・ボンドもよもやの戦闘機アクションまで飛んでいってしまい,面白いがどこかついていけない,とその後は縁遠くなってしまっていた。
 『霊柩車No.4』は何年ぶりかに手にとった松岡作品だが,短編と中編を組み合わせたような構成の,短編のほうはシックで緻密で大人びたA級作品,中編のほうは絵に描いたようなジェットコースターサスペンスのB級作品と,作者の二面性のよく表れた(正確には二面めが暴走した)構成になっている。
 霊柩車,遺体,火葬場といった要素にそれだけで「怖い」「気持ち悪い」と敬遠される方は別として,予断を許さないスピーディでスリリングな展開,プロの霊柩車ドライバーのブログに取材したというリアリティあふれる葬儀の薀蓄が読み手を飽きさせず,よく出来たエンターテイメントとなっている。たとえばこんな一節だ。

 「脳卒中や心筋梗塞で亡くなった故人を,しょっちゅう運ぶ。たいてい,生きているうちに血液がサラサラになる薬ってやつを飲んでる。そのせいで血液が固まりづらい。デリケートな液体入りの袋を運んでいるようなもんだ」

 個人的には,こういった薀蓄がちりばめられ,遺体の様子から事件の謎を読み取る,新本格ばりの前半の短編部が好もしい。このシリーズそのものは残念ながらそうではない方向に進みそうだが,ニヒルでカッコいいヒーロー像といい,エンターテイメントのジャンルに新しい柱ができたことは祝いたい。
 ……ただ,一点。この続編のタイトルは『霊柩車No.4 2』になるのか?

2006/11/24

串刺しにされてぎゃあぎゃあ鳴き喚く 『姉飼』 遠藤 徹 / 角川ホラー文庫

385【──さぞ,いい声で鳴くんだろうねぇ。】

 角川ホラー文庫から気になる本が続けて発売されたので,とりあえず紹介。

 「姉飼(あねかい)」は,短編ながら第10回(2003年)日本ホラー小説大賞受賞作。しかし,大賞に選んでおきながら選者らの評価がどちらかといえば酷評に近いものばかりで,ある意味悪趣味な興趣をそそられた。単行本をつい買い逃していたため,文庫になってさっそく購入してきた。

 「姉」とは,脂祭りの縁日に胴体のまんなかを太い串に貫かれてぎゃあぎゃあ泣き喚いている危険な生き物である。主人公は子供のころにクラスメートの家で姉を見て以来,姉を買うことを夢見続けて……。

 蚊吸豚,脂祭り,出店の姉ら,想像力がしたたるような世界を淡々と描く前半のエグさは悪くない。と思って読み進むと,後半は思いがけず正当派,といっておかしければ妙に人間ドラマ臭い短編小説としての体裁整えて終わる。力のこもったエンディングではあるが,容易に予想がつくといえばつく,類型的なオチでもある(類型的なものは,強いのだ)。

 かつて筒井康隆がSFを語るにおいて,小説を
   通常の世界に 通常の登場人物
   異常な世界に 通常の登場人物
   通常の世界に 異常な登場人物
   異常な世界に 異常な登場人物
の4つに分け,一番めは普通の小説,SFが担うのは二番めと三番め,四番めはもはや小説といえない,ということを書いていた。
 「姉飼」は,この分類でいえば途中から軸がぶれているのである。意図的かどうか。「妹の島」という作品でも視点がぶれたように,この作者はそのあたり少し無頓着なのかもしれない。

 ただ,よい悪いを問われれば,「姉飼」は,よかった。
 思わず鼻をそむけたくなるような悪臭,陰惨を随所に盛り込み,最後には強引に小説の型にはめて終わらせている。これはマンガに近いチカラワザである。無駄に話を長引かせず,短く切り上げたこともよかった。

 強いて物足りない点をあげるなら,「姉飼」という素晴らしいタイトルを得ながら,「姉」という言葉が作品中でなんら意味を持たなかったことだ。主人公に「弟」の要素を一切持ち込まなかったのは,作者の側の意図だろうか。

 ところで。「姉飼」が大賞を受賞した同年の日本ホラー小説大賞の短編賞は朱川湊人の「白い部屋で月の歌を」が受賞した。「白い部屋で」も作品としては悪くないが,確かに,一短編としての固さ,重さは「姉飼」に及ばない。
 もっとも,短編集『姉飼』収録の他の三篇(「キューブ・ガールズ」「ジャングル・ジム」「妹の島」)の思わぬ出来の悪さに比べれば,朱川の語り部としての技術,素養は桁違いで,その後朱川が営々と一定水準以上の作品を発表し続けていることを思うと『花まんま』での直木賞受賞はダテではない。

 ただ,ここでは,遠藤,朱川が日本ホラー小説大賞において同年受賞者であったこと,また,朱川のデビュー短編集『都市伝説セピア』収録のホラー短編「アイスマン」が,少年の日に縁日で非日常的な生き物に出会ったことがその少年の後の人生を狂わせて行くこと,その生き物や出店の正体が最後まで曖昧なままで終わってしまうこと,さらには登場人物を巻き込んだありがちなエンディングまで,実に「姉飼」そっくりな構成になっていることを記しておきたい。

2006/11/13

毒とも薬とも 『のりこ』 二階堂正宏 / 新潮社

726【頭を割るんじゃなくて お湯で割ってほしかったのよ】

 あちこちの書店でA5版,つまり大判のマンガ棚に割合よく見かける本なのだが(新潮社の営業力のタマモノだろう),昨今はマンガ本にビニール掛けしている書店が多く,内容を気にかけていた方も少なくないに違いない。

 『のりこ』は,林静一ばりの伏し目がちな美人妻が,七年間寝たきりの義母を殺そうとするが,義母は嫁を投げ飛ばし,マンガ的な回復力をもって生きながらえる。ただその繰り返しで1冊である。

 たとえば,(三河屋が届けてきた鯛を)「三枚におろせるかしら」と義母が問えば,嫁は包丁をふるって義母を三枚におろそうとする。「頭が重い」と訴えれば,斧を振りかざして頭を切り落とす。「ヌカ漬けの作り方知っているかしら」と問えば,腹を包丁で割いて内臓を引っ張り出し,塩辛の作り方と間違えていたと謝る。

 ときどき屋外編があったり,二人黙り込むシーンがあったりと,独特の破調が読み手を引き込むが,全体これがブラックユーモアになっているのかどうかはよくわからない。
 困ったことに,読むに堪えないとか,一読するや速攻古本屋行き,と言ってしまうにはそれなりに楽しんでしまったし,捨てる気もない。
 いや,どこかにそこいらの名作本より喜んでいる自分がいる。

 なんでこんな遠回しな言い方をしなければならないかといえば,それはこの作品が示す楽しみが「隠微」の領土にあるためだ。美少女の尻の穴さえクリック二,三発で安直に見られるようになった当今,「隠微」こそはなかなか得がたいものであり,なおかつ習慣性の強い媚薬なのである。
 タバコをやめるには,禁煙を宣言して壁に半紙の1枚も張ればよいが,「隠微」から逃れるのは難しい。「隠微」はそれを楽しんでいることからしてそも自分にも内緒だからだ。

2006/11/05

女の子は 人形じゃないんだから 『スミレ 17歳!!』 永吉たける / 講談社コミックス

17342【きっと誰かに届くハズです】

 ヘンなキャラにヘンな設定,そういうマンガなら多少は見慣れている。ましてやこんなショボい絵柄,今さら驚くことも……と油断してたら,うう。驚いた。

 主人公はおちゃめで明るい女子高生の四谷スミレ。
 ……ではない。多分。スミレは口元に切れ目の入った腹話術の操り人形であり,真の主体はそれを操っている黒子のオヤジのほうである。

 が,「ゼイゼイ」「ヒパーヒパー」と息切れする以外一切セリフのないこのオヤジが何者で,何を思って人形女子高生を操っているのかはまったく説明がない。
 ポイントは,操られているスミレが自分のことをごく普通の女子高生であると信じて一片の疑いもないことだ。オヤジはスミレがスミレであるためだけに愚直に力を尽くし,スミレはスミレでオヤジが蹴られようが殴られようが「フン 超空振り~ みたいな!!」と意にも介さない。ときどき勢いでスポッとスミレの首が抜けて,追うオヤジ。走るオヤジ。

 スミレは行く先々で騒動をまき起こす(それはまぁ,そうだろう)。スミレはまっすぐで優しくて夢見がちで,友だちの輪を広げ,ときどき壁にぶちあたった若者たちを立ち直らせる。
 スミレの言動は当然すべて黒子のオヤジによるものなのだが,とてもそうは思えない。少年たちはオヤジの操る人形とわかっていながらスミレに恋をしてしまう。おっちょこちょいなスミレだが,そこは年の功(?),恋する少年の扱いだけは妙に達者だ。このあたり,構造を冷静に考えるとかなり気色悪い。

 オヤジにはかつて娘がいて,とか,ウェットな背景を想像するのはたやすいが,この細目のオヤジは黒子に徹して,決して私生活を見せない。生活費はどう捻出しているのか?
 朝日新聞の書評は本作を「萌え」の構造を白日の下にさらけ出したと指摘したが,どうだろう……少し違うような気がする。ギャグとシリアスのバランスについては,徳弘正也『新ジャングルの王者ターちゃん』あたりを思い起こす。だから何,ではあるのだが。

 『スミレ 17歳!!』は2巻で完結し,週刊少年マガジンに『スミレ 16歳!!』とタイトルを少し変えてリニューアル連載され,単行本もすでに2巻発売されている。しかし,純度については初期の『17歳』のほうが格段に高い。だまされたと思って読んでみよう。たぶん貴方は呆れるだろう。少しだけ笑うだろう。少しだけ泣くだろう。

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