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2006/09/19

この夏読んだその他のホラー 『本当にあった呪いの話』『都市伝説セピア』『蟲』

959『本当にあった呪いの話』 三木孝祐 / ハルキ・ホラー文庫

 「実録怪談」系でヒットの少なくないハルキ・ホラー文庫にこのタイトル──期待して手に取ったのだが,落ちる球を引っかけて注文通りのショートゴロゲッツー,チェンジ。残念でした。
 タイトルの「本当にあった」というくだりは必ずしも嘘でなく,取り上げられているのはかつて新聞に載ったような大小の事故,事件である。問題は,それらに無理やり陰陽道の呪符や修験者の加持祈祷を結びつけるそのやり口だ。
 ことに胡散臭さを増しているのは登場人物に再三警察官を持ち出していること。警察という組織は,徹底したリアリズムの徒である。事件現場に落ちた呪符や藁人形にとらわれる刑事まではともかく,その調査を認める上長まで描いたらいくらなんでもやりすぎだろう。
 おまけのように記された陰陽道や修験道についての薀蓄もなにやら散発的で,全体に信用できない。修験者,神社仏閣に取材したというのは本当かもしれないが,その方角にまとまった威力が感じられない。
 ハルキ・ホラー文庫の他の「実録怪談」は事実に基づいているのに本書は違う,と,そういうことを言っているのではない。実録怪談の編著者たちは,彼らの信じる何やかやに従って描くべきことを描いているのである。本書の著者は加持祈祷のご利益や呪符,祓い,式神,方忌みといったものごとを本当に信じているだろうか。そうではないだろう。それならそこから書くべきなのである。

『都市伝説セピア』 朱川湊人 / 文春文庫

 『花まんま』で直木賞を受賞した朱川湊人のデビュー作。
 芥川賞は久しくよくわからない受賞作が続いているが,直木賞選評の目は比較すれば確からしい。この短編集も,作者の掌の上での転がされ具合が心地よい。
 素面で相対すると赤面してしまいそうな,若いというか青臭くエモーショナルな展開も少なくないのだが,それでもストーリーテリングの妙で最後までつるりと滑っていく,この面映ゆさ,この手腕は,デビュー当時の宮部みゆきを思い出させる。
 同じ公園で幾度となく友人の死と直面する少年を描く「昨日公園」は,最後の数ページが切なくてよかった。都市伝説を扱った「フクロウ男」,死者をめぐる苛烈な三角関係を描いた「死者恋」はいずれも設定が巧い。「アイスマン」は少し味付けが甘すぎ,「月の石」は散漫でよくわからなかった。

『蟲』 坂東眞砂子 / 角川ホラー文庫

 子猫殺しで話題になってしまった坂東眞砂子のデビュー当時の作品。
 昨年の夏,『夢みる妖虫たち 妖異繚乱』を読んだ後,虫を素材にしたホラーを探しては購入してそれっきりになっていた1冊。
 夫が拾い帰った古い石には「常世蟲」という文字が刻まれていた。その日からめぐみは怪しい夢に悩まされ始める。夫にとりついた巨大な緑色の「蟲」とは?
 ……という,作者の得意な古代と現代を結ぶ伝奇ホラーなのだが,いかんせんどこをどう怖がっていいのかわからないままずるずると読了してしまった。妊婦の心理を陰陰滅滅と描いた部分への評価もあるようだが,悪阻(つわり)の時期の女性の言動はもっとずたずたざくざくしたところがあって,この程度ではすまないような気もしないではない(女性にもよるだろうが)。
 最後のページに至るあらすじだけみれば,こういった作品は,たとえば昭和四十年代なら「ホラー」でなく「SF」の中篇として書かれ,発表されていたに違いない。いずれにしても,「SF」としては凡庸,「ホラー」としては本スジがよくわからない。なにしろ「蟲」が,「蟲」として,怖くも気色悪くもないのだから。

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