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2006/09/13

『再生ボタン』『怪の標本』『怪を訊く日々』『廃屋の幽霊』『亡者の家』 福澤徹三

688 いしいひさいちの『コミカル・ミステリー・ツアー4』,さらには新刊『ホン!』の,いずれでも取り上げられた福澤徹三。

 『コミカル・ミステリー・ツアー4』では『廃墟の幽霊』という作品に想を得た5コママンガ……これが,どこが面白いのかさっぱりわからん。『ホン!』では『亡者の家』という作品に対し,「福澤さんの描く怪異は,現実ではありえない,と言い切れない雰囲気を発散して,現実と物語の境界線をすんなりと越えて,圧倒させてくれます」などというベタな高評価。つまるところ,福澤徹三を読まぬわけには。

※ちなみに『ホン!』のタイトルは,同じ徳間書店の『フン!』を受けてのもの。犬マンガと書評マンガ,およそ内容を異にしながら,反骨の匂いがこってりそっくりなのはすがすがしくもいしい大人,天晴れの捻転返し。

 さてこそもののこの八,九月,ここまで読んだ福澤徹三は,とりあえず文庫化されたものから以下の五冊。

 『再生ボタン』 幻冬舎文庫
 『怪の標本』 ハルキ・ホラ-文庫
 『怪を訊く日々』 幻冬舎文庫
 『廃屋の幽霊』 双葉文庫
 『亡者の家』 光文社文庫

 『再生ボタン』はデビュー短編集『幻日』に筆を加え,再編集したもの。
 「夜ひとりで厠(かわや)にいるとき,牡丹の花の折れるところを想像してはいけません」なる,モノカキを志す者なら誰しもお好み焼きの上のカツオ節よろしく身悶えそうな一行で始まる,デビュー短編集と思えない見事な粉の溶き具合。いずれも短編アンソロジーに選ばれて遜色ないクオリティだ。ただ,ここに見られる作品の志向性は「怪談」というよりは「幻想文学」に近く,青い文学臭が鼻につく面も否めない。老成しているが青春文学なのである。

 『怪の標本』は『再生ボタン』と同じ路線だが,一言でいえば冷めたお好み焼き。

 『怪を訊く日々』は木原浩勝や平山夢明の著作に近い,いわゆる実録怪談モノ。平山ほどの切れ味はないが,1つの素材に対する執着が微妙に重く,全体に田舎暗い。

 中編『亡者の家』は,残念ながら『ホン!』で絶賛されているほどは感心しなかった。作品中に描かれた「家」の嫌な雰囲気は確かにわかるのだが,怪異そのものがありきたりで,フランスの幻想文学あたりに同じカタストロフィーを見かけたような……と思った時点で恐怖度三割引き。
 この作者は怪談の中でよく入れ替わり,すり変わりを巧みに用いるのだが,その点だけをもって評するなら『再生ボタン』収録の「仏壇」のほうが段違いに怖い。

 短編集『廃屋の幽霊』は,ほかの怪談採話者,あるいはホラー作家にない独特な境地を感じさせる快作,もとい怪作。
 作品中では,「実録怪談」によく現れるような廃屋,いわくありげな借家などが舞台として選ばれる。そして,いかにも「実録怪談」に描かれそうな怪異,心霊現象が語られる。そのくせ読後に残るのは実録怪談の風味を越えて,短編小説のそれなのである。これは,ホラー作品として,ありそうで案外ない。
 廃屋に現れる幽霊の噂をきっかけに嫌な気配がどんどん深まっていく表題作。リストラされた中年サラリーマンの不愉快さが怪談の不気味さと交互にすりかわりながらしこった不協和音を奏でる「庭の音」。古いアパートの住民の不潔感を頭からかぶってしまうような「市松人形」など,など。
 手応えは文学的というのでもない。なんというか,実録怪談が素材のままで怪しさを伝えるのに対し,蒸留して濃度を高めた,密度の高いいとわしさに素手で触る,そんな感じで実にもう嫌だ嫌だ。

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