『たまらなく怖い怪談 身の毛がよだつ実話集』 さたな きあ / KKベストセラーズ ワニ文庫
採話であるか創作であるかを問わず,怪談の編著者には当人なりの生理的な嗜好があるようだ。
「さたな きあ」(奇妙なペンネームだ。由来はわからない)の場合,たった今何もないと確認したばかりの空間(ロッカーや保冷車の中)にもやもやと人の髪の毛や顔,腕が見えてくる,というのがお好みのようだ。全体に「もやもや」「髪の毛ずるずる」系である。
もう一つ顕著なのは,登場人物に神経症の傾向があるなら説明がつくというタイプの話だ。
たとえば巻頭の「猫が…いる」。
自宅の内,外にいもしない猫の声を聞くようになった夫。それはだんだんエスカレートして,トイレの便器に多数の猫の首を見るにいたる。
ここまでなら,疲れた夫の幻聴,幻覚であり,怪談にするよりまずカウンセラーを奨めるべき話にすぎない。この「猫が…いる」で本来最も怖いのは,それを語る妻の衣服から猫特有の匂いがするという後日譚だろう。ところが,著者はどういうわけかそこを素通りして「夫を案じていた夫人の耳にもまた,猫の声が執拗に聞こえ始めていても,おかしくないように思う」などという,なんだかとんちんかんな感想で幕を閉じる。
違うだろう。これではまるで怖くない。まさかとは思うが,猫の気配や声,姿に翻弄される夫のばたばたした立ち居振る舞いや悲鳴,それをこの怪談の本領ととらえているのだろうか。
あるいは,ある病人がてるてる坊主を怖がることから書き起こされた一編。
古いアパートの一室に捨てても捨てても現れる,髪の毛のからみついた櫛。これだけで十分怖い話になりそうなものを,わざわざてるてる坊主嫌いにまで引っ張る必要などあったろうか? ましてや「あの部屋にはつまり,なんていうか,先客がいたってことなんだろうな」「たわごとと思うか思わないかは,あんたの自由だけどね……」などという余計なセリフを付けてまでページを増やす必要はなかった。
なかには深夜まで浴槽を洗い続ける隣室の中年女など,料理の仕方次第でかなり怖くなりそうな話はいくつもあるのに,余計な演出とセリフでただ大仰な話にしてしまう失敗が繰り返される。
いや,そういう大味な話術を好む読者がいるのなら,それを「失敗」というべきではないのかもしれないが……それでも。
たとえば,「四角い箱のなかで 保冷車の場合」の一節はこんな具合だ。
「白い腕が──髪の下から,ずるっと出てきて──ひっ! なにもなかったのに──どこから,こんなっ。ヒヒッ! かっ,顔が──ひいっ。こっちを向いてる! ヒッヒッヒ! 顔がっ!!」
これはこの話で一番怖いはずのシーンなのだが,鳥肌より先に笑いが漏れてしまう。
先にも書いたとおり,十分怖い怪談になりそうな素材が数編あるだけに,惜しい。
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