『百物語 第五夜 実録怪談集』 平谷美樹・岡本美月 / ハルキ・ホラー文庫
平山夢明の怪談は「実録怪談」,つまり知人か,せいぜいその知人の家族,友人に取材して採話した心霊体験──ということになっている。だが実際どうだろうか。
たとえば初期の『新耳袋 現代百物語』と平山の編著作を続けて読むとすぐわかることだが,平山はいかにもの「こしらえ話」が混ざることをとくに気にかけない。ルーズな商業主義とかんぐってみたが,そういうわけでもなさそうだ。
おそらく平山にとってよい怪談かどうかのポイントは,それが「実話」かどうかにはなく,(当たり前だが)それが本当に「怖い」かどうかにかかっている。実録,実話風であることは,こしらえものより怖く読ませるための手法に過ぎない。
だから,平山のテキストは余計なことには拘泥しない。すべてのセンテンスが短く切りまとめられ,静々ドスンとピュアな恐怖を描いてさっくり撤退する。読み手は怪異の隣に放置されたままである。
平谷美樹『百物語 実録怪談集』は,様式において,同じハルキ・ホラー文庫の平山夢明『怖い本』に非常に近しい。実録怪談をうたっていること,一編一編が短く,余計な因縁や訓話を持ち出さないこと。いずれも神経の領域で怪談を扱って完結している。
その試みはおおむね成功しているし,編著者が手馴れることによって,この『百物語』は初期より徐々に品質が向上している。
ただ……一冊通してみると,やはり平山『怖い本』に一日の長を認めざるを得ない。
決して,取材・採話した怪談に差があるわけではない──おそらく。『百物語 実録怪談集』と『怖い本』の取材先は,母集団がかなり近いのではないか。波の中に浮かぶ顔など,似た設定,似た怪談も少なくない。
だが,いつどこで語られているかを感じさせない平山怪談のクールさに比べて,『百物語 実録怪談集』は,微かに古い畳の仏間で語られる風情を残している。甘いと言ってしまうと酷だろうか。数編,数十編に一度にせよ,「当たり」にめぐり合ったときの平山の,言うなれば野生の黒豹が獲物にめぐり合った際の生々しい「舌なめずり」,艶めかしい「小躍り」にあたるものが平谷の編著作には欠けている。
その代わり,平谷のテキストでは,心霊現象に対して「その場に居合わせた者」「見てしまった者」へのシンパシィが各編に薄くかかり,それが怪談らしからぬぬくもりをかもし出している。さらにはゆがみ,うごめく「その場に現れる者」たちへの慈しみ,哀れみさえも。こういった情緒はただ恐怖のみを追うには余計かもしれないが,それはそれで,悪くない。
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