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2006/07/12

オカズいっぱい イベント多すぎ 『マンホール』(全3巻) 筒井哲也 / スクウェア・エニックス ヤングガンガンコミックス

873【…ただし普通の救急車じゃダメだ 感染症の疑いありと言え…!】

 それは,蚊やアブを介してヒトに感染し,右目角膜から網膜,視神経を伝って間脳の視床下部に侵入する。脳組織を食い荒らされたヒトは,摂食や飲水,性行動などの本能行動,怒りや不安などの情動を喪い,自律神経も乱される。
 その未知の寄生虫を日本に持ち込み広めようとする人物。彼を追う二人の刑事。感染の拡散と闘う保険所職員。

 本書のように,背景の白っぽい,効果線をほとんど使わない作品を見ると,この国のコミックにおいて「大友克洋」はすでに模倣やリスペクトの対象ではなく,遺伝子の域に入ったように思われてならない。もしかすると『マンホール』の作者には大友の影響下にあるという自覚さえないかもしれない。紙面を覆う緊張感はすでに技法ではなく様式である。
 ただ,ハードロックにおいて様式化が推し進められた結果それぞれのバンドの個性が見えなくなってしまったように,この種のコミック作品は次のステージに進むのが難しい。
 本書『マンホール』では,顔の皮膚下の寄生虫の動きや,マンションの一室に蚊の乱舞する場面がうざうざと生理的嫌悪を誘う。二人の刑事は寡黙だが所作,もの言いに味がある。首謀者を追う展開は時間との争い含めて読み手に緊張を迫る。……だが,それだけといえばそれだけだ。
 不安や不快感は3巻めともなるとそれなりに慣れてしまう。寄生虫は不気味だが,その生態はしょせん本能に基づいた生物の営みにすぎない。スリルとサスペンス(と言葉にすると古いが),通り過ぎてしまえばそれだけである。犯人のもくろみは多すぎるイベントの中に埋没して見えてこない。

 本書で扱われる新型フィラリアは架空の存在だが,実在する寄生虫の中には,たとえば,ヒツジに捕食されるためにいったんアリに寄生し,そのアリをしてヒツジのエサを食べる時間に草の先のほうに噛み付いて体を固定させしむるという槍形吸虫がいる。また,レウコクロリディウムという寄生虫は,幼虫時にカタツムリの触覚に寄生し,その触覚を鳥の好む芋虫に色・形・動きまでそっくりに擬態させ,カタツムリごと鳥に食べられようとする。あるいは,寄生したバッタの中枢神経をコントロールして水に飛び込ませ,溺死させて水中に躍り出るハリガネムシ。
 これらの寄生虫に比べれば,本書に登場する新型フィラリアは,ある意味穏やかにさえ思われる。そこで著者が持ち出した舞台が「マンホール」なのだが……残念ながら必ずしも成功しているようには思えない。ストーリーを装飾するオカズが多すぎて,振り返ってみると「マンホール」そのものにはたいした必然性がない。

 外薗昌也『エマージング』が全2巻,本書が全3巻。バイオハザードをテーマにした作品は,引っ張ろうと思えばいくらでも長くなると思うのだが,いずれも意外と短いのは,「相手」が意思のないウイルスであったり,寄生虫であったりするためだろうか。
 いずれも,描かれた可能性は恐ろしく,それをめぐる物語は面白い。だが,死に方がいささか悲惨とはいえ,ウイルスや寄生虫に感染して死ぬだけなら,それは交通事故の奇禍と大差ない。
 この世で本当に恐ろしいものは何か。それは少なくとも,謎の新型ウイルスや寄生虫の「気持ち悪さ」ではないだろう。

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