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2006/03/02

テレビライクな刺激発生装置 『推理小説』 秦 建日子 /河出文庫

037【30代。女性。バツイチ。子持ち。大酒飲み。無駄に美人】

 動機不明の連続殺人,犯行予告,犯人を追う捜査一課の美人刑事……。
 作者は「天体観測」「ドラゴン桜」などのテレビドラマの脚本家なのだそうだ。

 『推理小説』というこの上なく直接的なタイトル,作品内作品として犯行を予告した原稿が扱われることから,いわゆる「メタミステリ」「アンチミステリ」の系譜が想起されるが,そこにこだわると肩すかしをくらう。作品内作品は小道具程度に考えておけば十分だし,実験的作品,あるいはテレビ,出版等のメディアに対する批評的作品というのも(皆無ではないが)あたらない。

 ヒロイン雪平夏見の「いっさい片づけされてないゴミだらけの部屋」「大酒飲みで酔うとしばしば全裸で寝る」「無駄に美人」「警視庁捜査一課で検挙率ナンバーワン」といった設定はなかなか秀逸だし,「被害者が最期に見た景色を見たいとチョーク跡に寝転がる」という行動パターンもエキセントリックで魅力的だ。ただし,これらの設定,行為があとあとなにかに深く結びつくわけではない。

 要は「刺激」,なのだ。多分。
 この作者がどれほど平均的なテレビ人なのかはわからないが,最近のテレビのありようと照らし合わせるとおさまりがよい。
 たとえば犯人の動機はいちおう提示されるが,それはたいした問題ではない。17歳の容疑者を射殺してマスコミの好餌となったヒロインの過去,7歳の娘に「人殺し」と嫌われている現在など,それぞれセンシティブではあるが,次のページをめくればそれまで。つまり,これらはいずれもその場その時点での読み手への「刺激」として配置されているにすぎない。昨今のテレビ番組の多くが,政治も経済も文化も,すべてただ「刺激」の強弱に変換し,カラフルなテロップを付けて濫信していることとほとんど変わりがない。
 つまり,本書がある程度面白いのは,感覚中枢への刺激によるものが主であって,それ以上(以下)のものを求めてもあまり意味がないということだ。香辛料の利いた料理とでも称すればよいか。

 念のため。
 本書が「刺激」レベルであるからよくないとかよいとか,そういうことを言いたいわけではない。精神,情念,論理,世界観等々を描いたつもりの愚作駄作に比べれば本書は格段に爽快だ。小麦粉をこねたような小説,学芸会のごときテレビドラマの類に比べればかなり快適に時間をすごせた。それは否定しない。
 ただ,続編を読みたいかと問われれば,それはどうだろう。大方のテレビドラマ,ワイドショー同様,とくに必要を感じないというのが正直なところか。

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