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2006/02/11

痛々しさについて 『漫画家残酷物語』 永島慎二 / 朝日ソノラマ サンコミックス(ふゅ~じょんぷろだくとより復刊)

Photo【メシつぶを残すな カレーライスくったあとで】

 人は往々にして,「痛々しいもの」を目の前に突きつけられると批評精神を棚上げしてしまう。これは心理というよりほとんど反射の領域で,ある種のポスターやドラマへの反響が手放しで「感動」という言葉に自動変換され,真に優れた表現作品かどうか検証されないままに終わることが多いのはそうした背景による(※1)。

 永島慎二の作品は「痛々しい」。なかでも昭和30年代に発表された『漫画家残酷物語』はこの国の漫画史上もっとも「痛々しい」作品の1つかもしれない。
 『漫画家残酷物語』には老若さまざまな漫画家が登場し,デフォルメされた絵画的筆致で(※2)愚直に漫画を語り,あるいは口をつぐんで描き続ける。ある者は商業主義に反発し,ある者は自らの描きたいものを見失い,病に,貧しさに,一人ひとり磨り減っては消えていく。
 斧で割られたような傷だらけの漫画家たちが直接的,間接的に作者を反映しているかと思うと,漫画を描く行為そのものの険しさ,切なさが若い読み手を締めつけ,放さない。

 確かに,こんなものを若いうちに読んでしまうと,無条件に「かぶれ」てしまうのはやむを得ないかもしれない。いしかわじゅんは本作を「はしか」と位置づけた。
 いずれにせよ,『漫画家残酷物語』は当時,漫画を新しい表現形式として見据えようとする若者たちのバイブル,指標となり,同時に強い足枷となった。

 永島慎二の作品は,商業主義にひた走る時代の漫画が失いつつあったものについてすぐれて批評的だった。批評的ではあったが,それは必ずしも新たな創作にはつながらない。実際,漫画が「描けない!」痛みについてはあれほどの迫真性を示しながら,理想に燃えた漫画家が描き続ける漫画,あるいはその作品がヒットする展開はいずれも道徳の教科書のように作りごとめいて白々しい。

 あるいは。この作品に何度か登場する,誰か特定の個人(故人)のために心をこめて描くという漫画のあり方はどうか。ストーリーは感動的だが,考えてみれば個人に向けて描いた作品を社会に向けて出版するのは極めて贅沢かつわがままな行為である。そうして描かれた作品(漫画,小説,フォーク,ロック)がごくまれながらヒットすることは否定しない,しかし職業的,継続的な創作活動とはまた別の話だろう。
 「漫画家」を名乗り,継続して作品を描き続けるなら,そこに職業人としての苦さ,厳しさがあるのは当然である。「残酷」を口にし,痛々しさを訴えることが甘えでないとは限らない。

 結局のところ,『漫画家残酷物語』の恐ろしく強烈な魅力は否定しないが,同じ漫画家を主人公としながら説教臭さを感じさせない『若者たち』(※3)のほうが今は懐かしく,好もしい。
 『若者たち』は,エンターテイメントであることをきちんと表明しているのに対し,『漫画家残酷物語』は,「痛々しさ」がエンターテイメントであることを隠蔽している。そのあたりわかったつもりで原酒を氷で割るように少し薄めて読むのが『漫画家残酷物語』との正しいつき合い方ではないか。どちらにしても酔うはめには陥るわけだが。

※1 逆に,極めて痛々しい状況を描きながら,そういった条件反射を招かぬよう抑えた表現に努めた作品は,単に主題のみならず作品として深みのある感動を与える場合がある。反戦ものでいえば樹村みのり「海へ」,こうの史代「夕凪の街桜の国」など。

※2 永島慎二はエコール・ド・パリの画家,とくにモジリアニが好きだったのだろうか。イラストカットや木炭による素描を思わせる描写には,ピカソやシャガールの闊達さへの憧憬も感じられる。60年代の熱情がストレートに伝わらなくなった今も,本作のデフォルメされた人物造形の魅力は変わらない。

※3 『若者たち』はのちにドラマ化されて放送された(NHK銀河テレビ小説シリーズ「黄色い涙」,1974年)。出演は森本レオ,岸部シロー,下条アトムほか。主題歌「海辺の恋」は佐藤春夫の同名の詩に小椋佳が曲を付けたもの。荒井由実「晩夏(ひとりの季節)」と並ぶ同ドラマシリーズの音楽的成果の1つ。

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